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KL2021・OD・165
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ひき逃げ事故はどんな罪になる?|ひき逃げにあう前に覚えておきたいこと
どれほど気をつけていたとしても、ひき逃げの被害に遭ってしまうこともあります。また、注意しながら運転していても事故を起こしてしまい、気が動転してひき逃げの加害者になってしまうこともあるでしょう。
少し古いデータですが、平成29年版の犯罪白書では、ひき逃げが8,448件も発生しています。
年度 |
全発生件数 |
死亡ひき逃げ事故 |
重症ひき逃げ事故 |
軽傷ひき逃げ事故 |
2010年 |
1万2,360件 |
161件 |
911件 |
1万889件 |
2011年 |
1万1,961件 |
183件 |
856件 |
1万239件 |
2012年 |
1万1,278件 |
169件 |
831件 |
9,198件 |
2013年 |
1万198件 |
151件 |
776件 |
8,772件 |
2014年 |
9,699件 |
148件 |
773件 |
8,310件 |
2015年 |
9,231件 |
150件 |
722件 |
7,794件 |
2016年 |
8,448件 |
143件 |
754件 |
7,551件 |
参考:平成29年版犯罪白書
ひき逃げの多くは軽傷ですが、2016年であれば死亡が143件、重症が754件も発生しています。ひき逃げでなければ、死亡や重症化を防げる可能性があるはずですから、ひき逃げは全く許される行為ではありません。
この記事では、ひき逃げはどういった犯罪に該当するのか、ひき逃げに合った場合どういった対処をすべきかなど、ひき逃げに関する知識を紹介します。
ひき逃げとは、交通事故によって人を死傷させた際に、道路交通法第72条に定められた救護義務や報告義務をせず事故現場から離れる行為のことです。ここでは、ひき逃げをするとどういった罪に該当し、どの程度の刑事罰を受ける可能性があるのかについて確認しておきましょう。
ひき逃げは、まず道路交通法第72条に違反し、救護義務違反という犯罪に該当します。
(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
引用:道路交通法第72条
上記のとおり、交通事故を起こしてしまった場合、すぐに車を停め、負傷者を救護しなければなりません。加えて、道路における危険を防止する措置を取る必要もありますし、警察官に事故発生を報告しなければなりません。人がたくさんいる場所の事故の場合、運転者に先立って目撃者が事故被害者の救護活動を行なうこともあります。そういった場合でも、何もせずに現場から立ち去るとひき逃げに該当します。
注意が必要なのは、この義務は運転者だけでなく同乗者も負うという点です。事故を起こした本人だけが負う義務ではありません。
人を死傷させてひき逃げをした場合の法定刑は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金と定められています(道路交通法第117条第2項)。
第百十七条
車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
引用:道路交通法第117条
軽傷のひき逃げが多数を占めていることから、「軽傷であればひき逃げをしてもそれほど問題にならないのでは」と考えている人が少なくないのかもしれません。しかし、救護義務の発生には怪我の度合いは一切関係ありません。
道路交通法第72条にある通り、交通事故を起こした場合には救護活動などを行わなければならず、現場から離れることは許されていません。怪我の程度に依らず、上記処置を取らなければならないと理解しておきましょう。
ひき逃げによって被害者が死傷してしまった場合には、ひき逃げに対する罰則だけでなく、死傷させてしまったこと自体にも罰則が設けられています。どういった罰則があるのか確認しておきましょう。
過失運転致死傷罪とは、交通事故で被害者が怪我や死亡してしまった場合に適用される可能性がある犯罪です。過失運転致死傷罪が成立する要件は以下の3つです。
ここでいう過失は、事故を避けられる可能性がある際に認定されます。前方不注意、わき見運転、歩行者に築かなかった、ウインカードを出さなかったなど、さまざまな行為が該当します。
過失運転致死傷罪の法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。
(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
引用:自動者運転処罰法第5条
危険運転致死傷罪とは、危険な状態や状況の運転によって被害者が怪我や死亡してしまった場合に適用される可能性がある犯罪です。危険な状態や状況とは次のようなケースをいいます。
危険運転致死傷罪の法定刑は、被害者が亡くなった場合は1年以上の有期懲役、怪我を負った場合は15年以下の懲役です。
(危険運転致死傷)
第二条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
三 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
五 車の通行を妨害する目的で、走行中の車(重大な交通の危険が生じることとなる速度で走行中のものに限る。)の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転する行為
六 高速自動車国道(高速自動車国道法(昭和三十二年法律第七十九号)第四条第一項に規定する道路をいう。)又は自動車専用道路(道路法(昭和二十七年法律第百八十号)第四十八条の四に規定する自動車専用道路をいう。)において、自動車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の前方で停止し、その他これに著しく接近することとなる方法で自動車を運転することにより、走行中の自動車に停止又は徐行(自動車が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう。)をさせる行為
七 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
八 通行禁止道路(道路標識若しくは道路標示により、又はその他法令の規定により自動車の通行が禁止されている道路又はその部分であって、これを通行することが人又は車に交通の危険を生じさせるものとして政令で定めるものをいう。)を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
引用:自動車運転処罰法第2条
法政大学 法学部 須藤純正教授
自動車を運転して他人にけがを負わせた場合、民事責任(損害賠償)は加害についての故意と過失とで基本的に異なりません(民法709条)が、刑事責任の重さは故意と過失とで全く異なることを知る必要があります。
故意の傷害は15年以下の懲役刑が科されることがある(刑法204条)のに対し、過失の傷害は一般には最高でも30万円の罰金で、懲役刑が科されることはありません(刑法209条1項)。ただし自動車運転による過失傷害の場合は、刑の上限が懲役7年まで加重されています(自動車運転処罰法5条)。
次に、死亡に至った交通事故の場合の刑罰の重さは、故意の傷害は3年以上20年以下の懲役であるのに対し(刑法205条)、過失の場合は一般には最高でも50万円以下の罰金で、なんと懲役刑が科されることは絶対にありません(刑法210条)。ただし自動車運転による過失致死の場合は、刑の上限が懲役7年まで加重されています(自動車運転処罰法5条)。
以上を理解した上で、危険運転致死傷と過失運転致死傷の違いを考えてみます。まず、前者は後者の加重類型であり、いわゆる自動車運転処罰法2条各号が列挙する危険運転の類型の1つに該当する場合に限って重い前者の罪が成立します(例えば、単なる前方不注視は該当しません)。前者は人を傷害する故意がなくても、一定の危険運転行為及びその故意がある場合には、限りなく故意に近い行為であるとして、刑法の傷害罪や傷害致死罪に近い重い刑が科されるのです。
危険運転致死傷罪に必要な加重要素の立証ができるか否かは実際の裁判でも争われ、検察官が危険運転致死傷罪(制御困難運転類型)で起訴したにもかかわらず、裁判所は「自動車運転処罰法2条2号所定の犯罪の故意があったと認定するには、合理的な疑いが残る」として、過失運転致死傷の成立のみを認めた(縮小認定)裁判例があります。
須藤純正教授の経歴と関連著書 |
ご経歴 1976年東京大学法学部卒業,78~99年の間検事として札幌、東京、大阪の各地検や法務省勤務 1999年4月弁護士登録 2006年法政大学法学部教授(刑事法) 2015~17年在外研究で渡米(米国法学修士号(LL.M)取得) 法政大学教授・弁護士(第一東京弁護士会所属)として現在に至る。 関連著書 実務解説株式会社法(1991-商事法務研究会) 民商事と交錯する経済犯罪I(1994-立花書房) デリバティブと賭博罪の成否(2012-法学志林) 金融商品取引法の新潮流(2016-法政大学出版局) 西田典之先生献呈論文集-担保権侵害の擬律(類型的考察)(2017-有斐閣) |
ひき逃げに限らず、事故の被害者になった場合には加害者に対して損害賠償を請求できます。しかし、そのためには加害者を特定しておかなければなりません。ここでは、ひき逃げにあったときにどういった対応をすべきかについて確認しておきましょう。
まずは二次被害を避けるために、安全な場所へ移動しましょう。
次に、ただちに警察を呼んでください。警察に報告しなければ、交通事故証明書が発行されないからです。交通事故証明書とは、交通事故が発生したことを証明するもので、保険会社や事故加害者に対して損害賠償請求をする際に必要になる書類です。
また、救急車を呼ぶ、もしくは時間を空けずに病院に行くことも重要です。
大した怪我でないと自分自身では思っていても、後々痛みが出てくる可能性があります。むち打ちでは事故後数日しなければ痛みがでないこともありますし、脳挫傷の場合、自覚がないまま脳出血が進行していることもあります。
加えて、事故直後に病院にいっておけなければ、賠償を受けられない可能性があります。事故後に時間が経ってから病院に行った場合、交通事故との因果関係を否定され、保険会社から賠償を拒否される可能性があるからです。
加害者の特定のためには、加害者車両の特徴を把握しておくことが重要です。そのために車両情報を確認しメモしておきましょう。加害者の車種や色、ナンバーなど、できるだけ多くの情報を取得しておくことが重要です。可能であれば、携帯で写真をとっておくことも有効な手です。
加えて、目撃者を確保できればなおよいです。周囲に目撃者がいたようなら、声をかけてください。あなたが加害者の車の特徴を把握できてなくても
目撃者が把握している場合があるからです。とくに警察が来た際には実況見分が行われますが、この際目撃者からの事情聴取を行います。目撃者の証言によって、加害者車両の特定につながることもあります。
以下の表で、車の形や車種、特徴を紹介します。特徴に当てはまる車種の一例をネット等で調べてみてください。加害者の車種を特定できるかもしれません。
車のカタチの名称 |
特徴 |
典型的な車種の一例 |
軽自動車 |
ナンバープレートが黄色く、車体が小さい車種が多い |
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コンパクトカー |
軽自動車同様に小さいが、ナンバープレートは白が多い |
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SUV |
四駆と呼ばれることがあり、オフロードカーのような見た目 |
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ミニバン |
全高が高く、いわゆるファミリーカーのような見た目 |
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セダン |
いわゆる乗用車の形、タクシーやハイヤーなどに多い |
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ステーションワゴン |
屋根がそのまま後ろまで伸びている車 |
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クーペ |
ドアが2枚しかなく、スポーツカーに多い |
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オープン |
屋根が開いているか帆になっている、スポーツカーに多い |
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ひき逃げは道路交通法に違反し、救護義務違反に該当する可能性があります。人を死傷させてひき逃げをした場合の法定刑は10年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金です。
また、救護義務違反以外に、交通事故によって被害者を死傷させた場合にはそのこと自体に罰則が設けられています。過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の2種類があり、前者は過失によって、後者は危険な運転などによって被害者が怪我もしくは死亡した場合に適用される可能性があります。
ひき逃げに合った場合には事故後の対応が重要になります。直ちに警察に連絡し、事故後時間をおかずに病院に行くようにしてください。また、加害者が特定できるよう、車種の特徴をメモしたり目撃者に協力を仰いだりするようにしましょう。
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