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【大正大学柳田先生に聞く】交通事故後に起こりうるトラウマ反応とは?
交通事故により身体・生命の安全が脅かされたり、大切な人を喪ったりした場合、身体だけでなく心にもトラウマ反応が出る可能性があります。
実際にどのような反応が起こる可能性があるのか、大正大学の柳田多美准教授にお話をお伺いしました。
柳田多美 大正大学 心理社会学部 臨床心理学科 准教授
最終学歴:上智大学大学院文学研究科博士後期課程修了 学位:博士(心理学) 専門:臨床心理学、トラウマ心理学 学会関係:PCIT-Japan アドバイザー |
ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)編集部:
交通事故被害に遭った後に、被害者の心身にどのようなことが起こりうると考えられるのでしょうか?
柳田先生: 交通事故被害後(トラウマ体験後)
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1つ目は「再体験」と言って安全な場所にいても、何かをきっかけに事故の記憶がよみがえり、繰り返し体験してしまう症状です。
事故の場面の映画にもう一度投げ込まれてその時を体験するように、非常に生々しい再体験で五感を伴う時もあります。
普通の状態であれば、嫌なことを思い出しても気を紛らわせてこれ以上思い出さないようにできますが、再体験では自分で思い出した記憶のオン・オフができないため、最後まで思い出して苦痛を感じてしまうのです。
次に再体験をしないよう、さまざまなことを回避する「回避症状」が出現します。
交通事故の被害に遭ったケースでは、事故現場を避けたり、車通りのある場所に出かけられなくなったり、あるいは車に乗るのが怖くなったりする方もいます。
回避症状は苦痛から自分を守るために発症する当然の行動です。しかし、生活に多くの制限がかかるため生活の質を低下させてしまい、かえって回復を難しくさせます。
また、回避症状が進行すると、「否定的な認知や気分」がでてきます。その中には、以前は「麻痺」といわれていた症状もあります。
麻痺が起こると、心が凍ったように何に対しても感情が動かなくなり、つらいことを思い出しても平静な様子に見えます。
悲惨な事故のすぐ後に、ご遺族の方が淡々と話している場合はこの麻痺が起きている可能性があります。
麻痺を起こしている人は、周りからみると「気丈な人」「大丈夫そう」とみえ見逃されやすいのが特徴です。
しかし、だれと何をしても楽しさや親しみを感じられなくなりますし、現実への注意が減退しボーッとしてしまい回復が遅くなります。
DSMという診断基準の新しい版からは、「自分が悪いからこういうことに遭ったんだ」「自分が弱かったせいでこういうことになってしまったんだ」などと自分を責めてしまったり、「みんなが悪意に満ちていて自分に害を及ぼそうとしているんじゃないか」と否定的な受け取り方をするようになることも症状に入りました。
そういう否定的な認知がある方は、PTSDになりやすかったり、治りにくいことがわかったためです。
また、PTSDやトラウマ反応は誰出にも出てしまう、ある意味正常な反応であるものの恥と思ってしまうことも症状ととらえられます。最近のPTSDの治療ではこのような否定的な認知に働きかける専門治療も出てきています。
最後は「過覚醒」という症状です。トラウマ体験により生命の危険を感じることでストレスホルモンも大量に分泌されます。危険が過ぎ去った後でも緊張状態が抜けず、常に体や脳が警戒状態になっているため、些細な刺激にも敏感に反応してしまいます。
例えば、事故被害後の不眠症や、小さい音への過剰反応などです。なかには遠くで扉が閉まるような小さな音でも、飛び上がるほど驚いてしまう人もいます。
また、些細な言葉の一部なども小さな刺激を大きく拾う過覚醒があると、事故後に怒りっぽくなったと言われる人も珍しくありません。
自分は慎重な対応をしていたつもりなのに、相談者の怒りをかったという交通事故問題を取り扱う弁護士や事務所の方は、これはトラウマによる反応と理解しておくと関係が続けやすいかもしれません。
ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)編集部:
トラウマ体験に遭った方をサポートする際、家族や友人を含めた支援者が知っておくべきことはあるのでしょうか?
柳田先生: トラウマ反応は当事者でなくても、親しい家族や友人が交通事故被害に遭ったと見聞きしたり、交通事故を目撃したりすることで発症する可能性があります。
また、診断基準では職務上トラウマ体験にさらされ続ける人もトラウマ反応が発症する可能性があると指摘されています。
例えば、悲惨な事故や事件などを目にする警察官やレスキュー隊員、あるいは軍人などです。 トラウマ反応は周囲にも影響を及ぼすため、親身になって対応すれば支援者側にもトラウマ的反応が出る可能性があり得ます。
そのため、トラウマ体験をした方を支援するに当たり、相手と支援する自身の反応をトラウマ反応という枠組みを理解した上でケアを行う「トラウマ・インフォームド・アプローチ」「トラウマ・インフォームド・ケア」が広がっています。
1990年代からアメリカで広がっており、数年前に「連邦政府、連邦機関、米国議会内での使用と実践を推奨する」という法案が議会を通ったことで、日本でも知られるようになりました。 |
ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)編集部:
トラウマ反応を抱えて苦しんでいる方に、家族や周囲はどのようなサポートをするべきでしょうか。
柳田先生: 「トラウマ・インフォームド・アプローチ」「トラウマ・インフォームド・ケア」の実践は専門家でなくてもできるのですが、何よりもご本人の主体的な回復していく力を妨げないようにすることが重要です。
元気になってほしいと思えば思うほど、「早く忘れた方がいいよ」とか「いつまでも悲しんでいたらいけない」など、色々なことを言ってしまいがちです。 もちろん、そのような言葉によって救われる方もいますが、過去にPTSDやトラウマ反応で悩んでいた方に対し「何に傷ついたか」と聞くと「友人や周囲の言動に傷ついた」という回答が結構多く見受けられます。
この様にトラウマ被害後に発生する被害を「二次被害」と言いますが、PTSD症状や悲嘆の症状が長期間続いたり、うつになってしまったりする人の多くは「二次被害を受けた」と認知しているとの調査結果も複数発表されています。
被害者が二次被害により「傷つけられた」と思ってしまうことが、「自主的な回復を妨げてしまうのではないか」とも考えられています。 「被害」というと厳しい言葉をイメージしますが、「悲しんでいたら、亡くなった人も悲しむよ」といった励ましや、たまたま調子がよい時に言ってしまう「元気になったね」などの言葉も二次被害につながる可能性があります。
また、交通事故後には慰謝料などの金銭を受け取りますが、金銭に関する話も二次被害につながる可能性があるでしょう。 家族や友人ができるサポートとしては、言葉をかけるのではなく、実質的に生活を立て直す手伝いが重要です。
被害者のなかには、近所の方と会いたくないため、スーパーやゴミ捨て場に行くのが苦痛な方もいます。その場合に家族など周囲の人は、代わりに行くことがサポートになります。友人として、事故後に必要な手続きを手伝ってあげるなど実質的なサポートをおすすめします。
二次被害は、家族や友人以外にも、医療関係者や保険会社、士業の方、支援者など関係する方全員が加害者になり得ますので、各関係者のトラウマへの理解も必要です。 |
ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)編集部:
交通事故の被害に遭った場合、必ず示談交渉などの対応が必要になりますが、注意すべきことはありますか?
柳田先生: まず、本人が弁護士へ電話するのがつらいと思われる場合、家族や友人が一緒に電話することをおすすめします。
そのため、落ち着いている時に後から見直せる確認できるパンフレットをもらえるのであればもらっておくようにしましょう。
【記入例】 |
ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)編集部:
トラウマ反応が起きた場合、どこに相談すべきでしょうか?
柳田先生: トラウマ後の専門的な治療ができる機関もありますが、日本ではまだ数が少ないので、精神科などの医療機関に行かれることをおすすめします。
また医療機関と連携しての相談になることもありますが、カウンセリングを利用することもおすすめです。 |
ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)編集部:
なるほど。PTSDやトラウマ反応は再発する可能性があるのでしょうか。
柳田先生: 基本的に「再発」というのものはないと思います。ただトラウマ体験からかなり時間が経ってトラウマ反応が出る場合はあります。
個人的な意見ですが、傷に例えるならば、その体験がなかったこととして完全に傷跡が消えるというよりは、傷跡はあるけれども、触っても痛くはなくなってゆかれるイメージがあります。
事故による死別の悲しみも同じで、亡くなった方との関係が深ければ、その方の死をなんとも思わなくなるようなことはあり得ないのですが、その方を失った痛みを、心の中の棚みたいなものにしまっておけるようになるというイメージです。
その悲しみを取り出すと、悲しさは変わらないのだけれども、常にむき出しのままになることはないわけです。 |
交通事故によりトラウマ反応が出ることは、ある意味正常な反応と言えるそうです。
しかし専門機関に相談した方がよいという目安を知りたい方にはこちらのチェックリストも参考になります【IES-R】。
まずは一人で抱え込まず、周囲の信頼できる人や専門機関に相談してみてください。
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