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交通事故の治療中の医療過誤|誰が賠償責任を負うべきか判断する基準

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公開日:2018.6.20  更新日:2022.3.15
交通事故の責任 弁護士監修記事

交通事故の治療中の医療過誤|誰が賠償責任を負うべきか判断する基準

交通事故の被害者が受傷の治療のため病院で治療をした際に、医師の医療過誤(医療ミス、特にレントゲンやMRI等の画像検索結果)により、本来であれば治療が必要な場合。

にもかかわらず、医師の見落とし等により適切な治療を行わなかった場合、受傷の状態がさらに深刻になってしまったり、死亡してしまっりした場合には、事故の被害者(被害者遺族)は、誰に対して損害賠償を請求することが出来るのでしょうか。

今回は、交通事故の受傷での治療の際に医療過誤が発生した場合の賠償を負うのは、加害者かそれとも病院側かについて記載したいと思います。

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交通事故における医療過誤の際の賠償責任は判断が分かれる

事故被害者が事故で受けた傷害の治療において、医師の医療過誤が発生し、被害者の症状が悪化したり死亡した場合には、交通事故の加害者と医療ミスの加害者である医師がどのように賠償責任を負うかは大きく分けて2通りの方法があります。

 

1つは「共同不法行為」として、事故の加害者もしくは病院のどちらか一方に対して損害賠償額の全額を請求する方法です。

 

もう1つは「不法行為の競合」として、事故の加害者と病院に対して、被害者に与えた責任の大きさ(寄与度)により、加害者側には損害賠償額のうちの○%、病院に対して残りの○%を請求するといった方式です。

 

どちらの方式を採用するかについては、過去の判例から判断が分かれています。

 

事故と医療過誤が共同不法行為の場合は事故の加害者と病院のどちらか一方に全額請求できる

 

共同不法行為とは、複数の人間の行為により、権利侵害の結果を発生する行為のことをいいます。そして共同不法行為が発生した場合には、共同不法行為を行った各自が、損害を補償することが民法719条により規定されています。

 

民法719条

数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、

各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。

共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを

知ることができないときも、同様とする。

引用元:民法719条

 

共同不法行為の場合には、不法行為を行った責任者は、全員が連帯責任を負うことになります。交通事故の医療過誤の場合で言えば、事故の加害者も医療過誤を行った病院側も、双方が被害者に対して責任を負うことになります。

 

そしてこの場合、被害者は事故の加害者もしくは病院のどちらか一方に対して損害の全額を請求することができます。

 

共同不法行為の際には求償がある

共同不法行為には、その行為を行った各行為者の間において、求償をすることができます。

 

具体的に言えば、事故被害者が病院での治療により死亡して、被害者の被った損害が1億円であり、事故の加害者が被害者に対して1億円を支払った場合において、仮に事故の加害者と病院の間での責任の割合が加害者:病院=20:80であった場合、加害者は病院に対して8,000万円を請求することができます。

 

ただし、事故加害者と病院の間での責任の割合の算定には、被害者のケガの程度や医師の治療内容など、医学的な専門知識が必要になるため、加害者と病院とで責任の割合について合意に至らない場合があります。

 

そのような際には事故の加害者と病院とで求償の割合についての裁判を行うことになります。

 

事故と医療過誤が共同不法行為とした裁判例

事故と医療過誤が共同不法行為となると判断した裁判例には以下のようなものがあります。

 

・裁判所…東京高等裁判所

 

・判決日…昭和57年2月17日判決

 

・事件番号:昭55(ネ)2568号 ・ 昭52(ネ)818号

 

内容:交通事故により右下腿開放性骨折の被害を受けた者が医師の医療処置の誤りによりガスえそに罹患し、片足を切断した際に、医療事故と交通事故との間に共同不法行為の成立を認め、診療所開設者に右切断によって被った損害のすべての賠償責任を認めた事例

 

事故と医療過誤が不法行為の競合(競合不法行為)の場合は寄与度に応じて損害賠償を請求する

 

2つ目の方法は、交通事故の加害者と医療事故の加害者は別に不法行為を行ったとして、事故と医療過誤を不法行為の競合として、交通事故の加害者と医療過誤を行った病院は、因果関係の限度や、割合損害への寄与度に応じた責任のみを負担する方法です。

 

交通事故と医療過誤は、被害者が被った被害の場所や時間が離れており、それぞれを共同不法行為とすることが出来ず、事故加害者と病院の不法行為が競合しているという考え方です。

 

不法行為の競合の場合には、事故被害者は、事故加害者と病院に対して、それぞれの寄与度に応じて損害賠償額を双方に請求することになります。

 

たとえば、事故の受傷で医療過誤が起こり、被害者の全損害額が1億円であり、事故加害者の寄与度が30%、病院の寄与度が70%だった場合、被害者は事故加害者に対して3,000万円、病院に対して7,000万円を請求することになります。

 

不法行為の競合として寄与度に応じて賠償額の支払いを命じた裁判例

 

事故と医療過誤を不法行為の競合とした裁判例としては以下のようなものがあります。

 

・裁判所…東京高等裁判所

 

・判決日…平成10年4月28日判決

 

・事件番号…平9(ネ)610号

 

内容:自転車を運転していた際に、タクシーと衝突した事故被害者が、搬送された病院にて左頭部打撲挫傷、顔面打撲であるとの診断をされその治療をし、入院の必要はないものされ帰宅したものの、帰宅後深夜に容態が重篤になり、頭蓋骨折を伴う左側頭部打撲による左中硬膜動脈損傷を原因とする急性硬膜外血腫により死亡した。裁判所は病院の寄与度は5割であると判定を行った。

 

直近の最高裁判所での判決事例

裁判所の判決において判断が分かれる医療過誤についてですが、最高裁判所での裁判例がありましたので紹介しておきます。

 

裁判所…最高裁判所

 

判決日…平成13年3月28日

 

事件番号…平成10(受)168

 

内容:被害者(6歳男子)が自転車を運転中に交差点内に進入した際にタクシーと接触し、転倒した。交通事故後は正に病院に搬送され、左頭部に軽い皮下挫傷による点状出血を、顔面表皮に軽度の挫傷を認めたが、病院側は軽微な事故であると考え帰宅させた。被害者は帰宅後嘔吐(おうと)し、眠気を訴えてそのまま睡眠をとった。その後体温の上昇、けいれんの症状を起こしたため病院に搬送されたが死亡した。

 

この判決で最高裁判所は、交通事故と医療過誤が「共同不法行為」にあたるとして、以下の表な判決を出しました。

 

「それぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから、被害者との関係においては、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し、各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されないと解するのが相当である。ただし、共同不法行為によって被害者の被った損害は、各不法行為者の行為のいずれとの関係でも相当因果関係に立つものとして、各不法行為者はその全額を負担すべきものであり、各不法行為者が賠償すべき損害額を案分、限定することは連帯関係を免除することとなり、共同不法行為者のいずれからも全額の損害賠償を受けられるとしている民法719条の明文に反し、これにより被害者保護を図る同条の趣旨を没却することとなり、損害の負担について公平の理念に反することとなるからである。」

引用元:(最高裁 平成13年3月28日判決)

 

つまり最高裁の判断としては、寄与度によって損害額を按分する方法はとらずに、被害者は事故加害者か病院のどちらか一方に対して全額損害賠償を請求するべきだと判断しました。

 

交通事故と医療過誤が同時に発生した場合に弁護士に依頼するメリット

もし、交通事故と医療過誤が同時に発生した際の加害者だった場合、病院側と求償について争わなければならなくなります。交通事故と医療過誤の求償に関しては、高度な専門的知識を必要とするため、加害者自身で適切な責任の割合を算定することは不可能でしょう。そのため加害者となってしまった場合には、弁護士に依頼を行うようにしましょう。責任の割合に関しては、訴訟において判断されるケースが多いと考えられますが、その際に弁護士に依頼をしておけば、加害者にとって不利な責任の割合を算定される可能性が低くなることが考えらえます。

 

また、交通事故と医療過誤が同時に発生した際の被害者になってしまった誰にどのように損害賠償を請求するべきかの判断は事故後の内容により非常に困難となります。

 

上記の判例のように交通事故と医療過誤に関連性があった場合は良いですが、たとえば事故の影響で骨折を負って入院中に、投薬を間違えてしまったことにより死亡した場合なども挙げられます。そのような際には誰にどの程度の額を請求するかの判断は非常に困難になってしまいます。

 

上記判例と同じように考えられない場合に関しては、一度弁護士に相談することが良いでしょう。

 

まとめ

交通事故と医療過誤の損害賠償は誰が行うのかについて理解していただけたでしょうか。過去の判例によりどのような判断があったのかは紆余曲折がありましたが、最高裁判所の判断としては、共同不法行為として、被害者は事故加害者か病院側どちらか一方に、全損害額を請求することが出来るという判断がされました。

 

また、医療過誤が発生した場合には損害額の算定は一概には困難になりますので、一度弁護士に相談することを強くおすすめします。

 

この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事はベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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