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ハンドル握ると人が変わる?あおり運転をしてしまうその心理とは
些細なきっかけで起こるあおり運転。
2017年「あおり運転」を世間に広めた通称、東名高速夫婦死亡事故では、パーキングエリアの駐車エリア外に駐車したことを注意されたのをきっかけに、長距離にわたりあおり運転を行い、最終的に被害者2名が死亡する悲惨な事故へ発展しました。
ニュースを見ると被害者側にとっては驚くほどに些細な行動がきっかけになっていたりします。なぜ、このような些細な行動にここまで怒りを感じてしまうのでしょうか。
今回は特別に、駿河台大学の小俣教授に、あおり運転をしてしまう加害者の心理について意見をお聞きしました。
大学:名古屋大学卒業、同大学院心理学研究科単位取得満期退学 現職:駿河台大学心理学部教授 専門:犯罪心理学、社会心理学 学会関係:犯罪心理学会理事 |
※あおり運転に関する心理学的研究はほとんどなく、日本ではまだ十分に検討されておりません。従来の社会心理学や犯罪心理学の知見からするとどう解釈できるか、という点でお伺いしました。
事故ナビ編集部:昔から「ハンドルを握ると人が変わる」という話もあるように、温厚な人も運転すると攻撃的になるケースもあるかと思いますが、なぜそのようになってしまうのでしょうか。
小俣教授:運転時に攻撃行動が起こりやすいのは普通のドライバーでもあり得ます。そのような場合、その人と車との関わりの強さも関係してくるかな、とは思います。 車が大好きで強いこだわりを持つ人は、無意識的に車を自分のなわばり空間と考えていることもあります。 例えば、トラックの運転手さんが自分好みに車を装飾するのも、なわばり行動の一種であることがわかります。
「ここは俺の場所で、俺はこういう人間なんだ」という占有性や自己表出性を示す行動はよく見られます。 ただ、このなわばり性が常にあおり運転のような攻撃行動に結びつくとは限りません。 また、攻撃的になるというより、気が大きくなり普段と違う行動をとりやすくなります。普段は一切そういうことをしないのに、車に乗ると若い娘に声かける人もいます。 しかし、相手の行動によってなわばりが侵害されていると感じてしまえば、「守らなければ」と思ってしまい、攻撃行動に出てしまうことも考えられます。 また、なわばりを持つのは大体雄ですので、警察庁の調査であおり運転の加害者の約96%が男性というのも納得できるのではないでしょうか。 |
事故ナビ編集部:車内を特別な空間(なわばり)と思ってしまい、守りたい気持ちから相手を攻撃してしまうのですね。
小俣教授 その可能性はあると思いますし、自分の空間や自分自身が侵害されたと思いやすくなることも考えられます。 しかし、あおり運転につながる要素にはそれに加え、加害者側に特有の認知の仕方(ものの見方)があるかと思います。 例えば、信号があるから少しスピードを落とす行為は、一般的な行為で多くの人はそれに対し怒りを感じないでしょう。 しかし、特有の認知の仕方をしてしまう人からすると、「こいつわざと車間距離を寄せてきやがって、邪魔しようとしているのか?」といったような心情になり得ます。 そういう認知のゆがみが、危険なあおり運転につながります。このような認知のゆがみを「敵意帰属(てきいきぞく)」といいます。 |
事故ナビ編集部:普通の行動であっても、相手が自分に敵意があるように感じてしまうのですね。
そうですね。 例えば、ウエイターが間違えて水をこぼしてしまった場合、敵意帰属傾向がある人は「こいつわざとやったのではないか」とウエイターに敵意を抱くのです。ただ、この「敵意帰属」はどうにでも解釈できるような曖昧な状況で起こりやすいと言われています。 あおり運転をする人は、少しでも自分の運転を邪魔されると、「おびやかされた」と認識し、怒りがこみあげてくるのかと思われます。 |
事故ナビ編集部:敵意帰属は、生まれ持った性質なのでしょうか。それとも、育ってきた環境で形成されるのでしょうか。
小俣教授 敵意帰属は生活史の中で形成されます。親の考え方や対応がモデルとなり、小さい頃からそれを通して学習していきます。 ただ、学習したからといって、すべての人が行動に移すわけではありません。 例えば、刑事ドラマを見ていれば、自然と人の殺害方法を学習しますが、だからと言って実際に行動に移す人はほとんどいないでしょう。 では、なぜ行動に移してしまうのかですが、これは「1番簡単で手っ取り早い方法だから」です。例えば、相手に連絡を取って、理由を聞いて、解決をする。といった一連の行為はとても時間がかかりますし、面倒臭いでしょう。 なので、手っ取り早く殴ってしまえと思ってしまうのです。力で相手を支配したほうが簡単だっていうことを子供たちは生活の中で学習していきます。 口で言っても聞かなければ、子供を叩いて言うことを聞かせる親もいますが、そういった暴力などで相手を従わせようとする、またはそういった行動を頻繁に起こしやすい親の元であれば、「力で相手を支配する」方法や考え方が簡単に身についてきます。 |
事故ナビ編集部:今までの生活の学習の結果のひとつに「あおり運転」があるわけですね。
そうですね。 ただ、すべての人が行動に移すわけではないといった通り、自己統制・セルフコントロールができる人は違いますよね。 怒りをコントロールするとか、あるいは相手の立場になって考えるということを身に着けているかが重要になります。 心理学では「他者視点」と呼んでいますが、他者視点に立って物事を考えることができる人、自分をコントロールできる人は、攻撃的な方法、暴力的な方法を学習しても実際に行動にはうつさないと考えられるでしょう。 逆に、自己抑制・自己統制が弱い人は、キレやすくあおり運転をしやすい傾向にあります。 |
事故ナビ編集部:お話を聞いている限り、あおり運転をしてしまう人は、日常生活や人間関係にも問題が発生しやすそうですが、そのような影響は考えられますか?
小俣教授 このような攻撃的なことをする人は、社会的スキルが未熟で人間関係がうまくいかず、あちこちで問題をおこしている可能性があります。 また、あおり運転の加害者年齢を見たとき、実数としては40代が多いのですが、免許保有者10万人あたりの人数で見ると10代の方が多くいます。 交通違反者と若年者には「社会的な協調性が低い」という共通点があります。 |
事故ナビ編集部:社会的協調性が低いという共通点があったのですね。
社会心理学でよく知られているように、社会から正当に評価されていないなどといった社会に対して不満を持つ人は攻撃的傾向が高まります。したがって、その高まった攻撃行動が、車へのこだわりを通じて「運転行動」」に現れるのは十分考えられるでしょう。 一般的に、そういった攻撃的な欲求をどうやって消失するか、はたまた発露するかは、まさに個人の置かれている状況や考え方によって変わってきます。 あおり運転の場合、車とのかかわりが強いライフスタイルがありますので、車を通して攻撃行動が行われるようになるのでしょう。 |
事故ナビ編集部:あおり運転を受けた場合、加害者の攻撃行動や怒りをおさえてもらうために、被害者はどのような対処をすべきでしょうか。
小俣教授 これについては、状況や場面にもよるかと思います。現場での場合、当事者間で何かするというのは、かなり危険ですし、難しいでしょう。 警察など第三者を加え「冷静に」「論理的に」対処できる場に持っていくようにするのが賢明かと思います。 |
事故ナビ編集部:やはり、通報や警察への相談が最善なのですね。逆に親や友人など自分の乗る自動車の運転手があおり運転をし始めた場合、どうすべきでしょうか。
対処法は、その人たちの関係にもよると思います。 ただ一般的にこの記事で説明したようにあおり運転が起こっているとすると、下手に何か言ってしまうと、怒りの矛先が助手席の人へ向く可能性もありえます。 あるいはさらにあおってしまう可能性も。黙っているというのは消極的すぎるかもしれませんが、あまり刺激をしないほうが良いと思います。 こういう人たちに下手に対応しても、火に油を注ぐみたいなものです。すぐ警察とか公的な機関に行ったほうがいいと思います。 |
あおり運転は、こちらが安全運転していてもいつ被害者になるかわかりません。加害者の認知のゆがみが関係している可能性があるとのこと。
そもそも考え方やものの見方が違う可能性がありますので、被害に遭った場合は無理に話し合うことは避けましょう。
その上で、外に出たりせず、ドライブレコーダーなどで録画の上、警察へ通報・相談しましょう。
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