逸失利益とは?後遺障害・死亡時の計算方法をわかりやすく解説【早見表付き】
保険会社から提示された賠償額に「これで妥当なのだろうか」と疑問を感じる方は少なくありません。
実は、逸失利益は後遺障害の等級に応じて金額が変わるうえ、保険会社の提示額は、裁判上認められうる金額よりも低い「任意保険基準」で算出されているケースが多いです。
本記事では、逸失利益の意味や種類、後遺障害・死亡時の計算方法、増額のポイントまでを解説します。
ケース別の計算例や早見表も掲載しているので、自分の状況に近い例から金額の目安を確認してください。
この記事の監修者
澁谷 望 (第二東京弁護士会)
交通事故の「逸失利益」とは?

逸失利益とは、交通事故に遭わなければ本来得られていたはずの収入のことで、慰謝料や治療費とは別に、将来にわたる収入の減少分を補償する費用です。
不法行為に基づく損害賠償請求では、労働能力の低下によって生じる将来の収入減も、財産的損害として扱われます。
事故で後遺症が残り、以前と同じ仕事を続けられなくなったことで生じる減収分などが代表例です。
降格や転職によって年収が下がったケースも、逸失利益として請求できる可能性があります。
逸失利益の主な種類

逸失利益には、大きく分けて2つの種類があり、被害者の状態によって、認められる逸失利益の内容は大きく異なります。
それぞれの種類を押さえておくことで、自分のケースがどれに当てはまるかを判断しやすいです。
後遺障害による逸失利益
後遺障害逸失利益は、後遺障害が残ったことで下がる将来の収入を埋め合わせるためのものです。
認定された等級に応じて、働く力がどれだけ落ちたかを示す割合(労働能力喪失率)が実務上で相場がある程度決まっています。
割合をもとに、将来もらえたはずの収入との差額を計算するのが一般的です。
死亡による逸失利益
死亡逸失利益は、被害者が亡くなったことで将来もらえるはずだった収入の全額を埋め合わせるためのものです。
死亡によって働く力が100%失われ、その後の収入が完全に途絶えてしまうためです。計算では、生活費として使われていたはずの金額が差し引かれます。
一家の大黒柱が亡くなった場合、定年の67歳まで働いてもらえたはずの給料から、本人の生活費相当額を差し引いた金額を遺族が請求します。
逸失利益と休業損害・慰謝料の違い
逸失利益は、慰謝料や休業損害とは異なる性質を持つ損害項目のひとつです。
同じ損害賠償金でも、それぞれ埋め合わせる対象や法律上の位置づけが異なります。
3つの違いをまとめると、以下のとおりです。
| 項目 | 埋め合わせる対象 | 対象となる期間 |
| 逸失利益 | これから先の収入減 | 症状固定後から将来 |
| 休業損害 | これまでの収入減 | 事故から症状固定まで |
| 慰謝料 | けがの痛み、通院の苦労等 | 事故から症状固定まで |
休業損害との違い
休業損害は事故から症状固定(治療終了)までの収入減、逸失利益は症状固定後の収入減を埋め合わせるものです。
対象となる期間が違うため、補償の中身も別々に計算されます。
入院していた3ヵ月間、給料が出なかった分は休業損害にあたります。
一方で退院後に、後遺症の影響で仕事の効率が落ち、収入が下がると予測される分は逸失利益で請求します。
慰謝料との違い
逸失利益は収入面の損害、慰謝料はけがの痛みや通院の苦労等に対する埋め合わせである傷害慰謝料と後遺障害慰謝料があり、精神的な側面の損害です。
法律上の分類も計算の基準も異なります。
後遺障害によってこれから先の給料が減る分を埋め合わせるのが逸失利益。
痛みや苦労を抱えながら生活を続けることをお金に換算して支払われるのが後遺障害慰謝料です。
後遺障害逸失利益の金額目安【早見表】
後遺障害逸失利益はどのくらいの金額になるのか、目安となる早見表は以下のとおりです。
後遺障害等級に応じて、男女別・年齢別で作成しています。
自身のケースに近い年齢・等級を確認して、金額の目安を参考にしてください。
ただし、労働能力喪失期間は、後遺障害等級により認定される期間がおおよそ定まっていることにご留意ください(下表の金額や期間が必ずしも認定されるわけではありません。)。
【後遺障害逸失利益の目安額(男性)】
| 後遺障害等級 | 20歳 (労働能力喪失期間47年) |
25歳 (労働能力喪失期間42年) |
30歳 (労働能力喪失期間37年) |
35歳 (労働能力喪失期間32年) |
40歳 (労働能力喪失期間27年) |
45歳 (労働能力喪失期間22年) |
50歳 (労働能力喪失期間17年) |
55歳 (労働能力喪失期間14年) |
60歳 (労働能力喪失期間12年) |
| 1級 | ¥152,825,843 | ¥144,744,450 | ¥135,375,090 | ¥124,514,402 | ¥111,922,989 | ¥97,326,648 | ¥80,405,373 | ¥68,985,283 | ¥60,789,078 |
| 2級 | ¥152,825,843 | ¥144,744,450 | ¥135,375,090 | ¥124,514,402 | ¥111,922,989 | ¥97,326,648 | ¥80,405,373 | ¥68,985,283 | ¥60,789,078 |
| 3級 | ¥152,825,843 | ¥144,744,450 | ¥135,375,090 | ¥124,514,402 | ¥111,922,989 | ¥97,326,648 | ¥80,405,373 | ¥68,985,283 | ¥60,789,078 |
| 4級 | ¥140,599,775 | ¥133,164,894 | ¥124,545,083 | ¥114,553,249 | ¥102,969,150 | ¥89,540,516 | ¥73,972,943 | ¥63,466,460 | ¥55,925,952 |
| 5級 | ¥120,732,416 | ¥114,348,115 | ¥106,946,321 | ¥98,366,377 | ¥88,419,161 | ¥76,888,052 | ¥63,520,244 | ¥54,498,373 | ¥48,023,372 |
| 6級 | ¥102,393,315 | ¥96,978,781 | ¥90,701,311 | ¥83,424,649 | ¥74,988,403 | ¥65,208,854 | ¥53,871,600 | ¥46,220,139 | ¥40,728,682 |
| 7級 | ¥85,582,472 | ¥81,056,892 | ¥75,810,051 | ¥69,728,065 | ¥62,676,874 | ¥54,502,923 | ¥45,027,009 | ¥38,631,758 | ¥34,041,884 |
| 8級 | ¥68,771,629 | ¥65,135,002 | ¥60,918,791 | ¥56,031,481 | ¥50,365,345 | ¥43,796,992 | ¥36,182,418 | ¥31,043,377 | ¥27,355,085 |
| 9級 | ¥53,489,045 | ¥50,660,557 | ¥47,381,282 | ¥43,580,041 | ¥39,173,046 | ¥34,064,327 | ¥28,141,880 | ¥24,144,849 | ¥21,276,177 |
| 10級 | ¥41,262,978 | ¥39,081,001 | ¥36,551,274 | ¥33,618,888 | ¥30,219,207 | ¥26,278,195 | ¥21,709,451 | ¥18,626,026 | ¥16,413,051 |
| 11級 | ¥30,565,169 | ¥28,948,890 | ¥27,075,018 | ¥24,902,880 | ¥22,384,598 | ¥19,465,330 | ¥16,081,075 | ¥13,797,057 | ¥12,157,816 |
| 12級 | ¥21,395,618 | ¥20,264,223 | ¥18,952,513 | ¥17,432,016 | ¥15,669,218 | ¥13,625,731 | ¥11,256,752 | ¥9,657,940 | ¥8,510,471 |
| 13級 | ¥13,754,326 | ¥13,027,000 | ¥12,183,758 | ¥11,206,296 | ¥10,073,069 | ¥8,759,398 | ¥7,236,484 | ¥6,208,675 | ¥5,471,017 |
| 14級 | ¥7,641,292 | ¥7,237,222 | ¥6,768,755 | ¥6,225,720 | ¥5,596,149 | ¥4,866,332 | ¥4,020,269 | ¥3,449,264 | ¥3,039,454 |
【後遺障害逸失利益の目安額(女性)】
| 後遺障害等級 | 20歳 (労働能力喪失期間47年) |
25歳 (労働能力喪失期間42年) |
30歳 (労働能力喪失期間37年) |
35歳 (労働能力喪失期間32年) |
40歳 (労働能力喪失期間27年) |
45歳 (労働能力喪失期間22年) |
50歳 (労働能力喪失期間17年) |
55歳 (労働能力喪失期間14年) |
60歳 (労働能力喪失期間12年) |
| 1級 | ¥109,375,456 | ¥103,591,709 | ¥96,886,181 | ¥89,113,328 | ¥80,101,819 | ¥69,655,409 | ¥57,545,073 | ¥49,371,864 | ¥43,505,948 |
| 2級 | ¥109,375,456 | ¥103,591,709 | ¥96,886,181 | ¥89,113,328 | ¥80,101,819 | ¥69,655,409 | ¥57,545,073 | ¥49,371,864 | ¥43,505,948 |
| 3級 | ¥109,375,456 | ¥103,591,709 | ¥96,886,181 | ¥89,113,328 | ¥80,101,819 | ¥69,655,409 | ¥57,545,073 | ¥49,371,864 | ¥43,505,948 |
| 4級 | ¥100,625,420 | ¥95,304,372 | ¥89,135,287 | ¥81,984,262 | ¥73,693,673 | ¥64,082,976 | ¥52,941,467 | ¥45,422,115 | ¥40,025,472 |
| 5級 | ¥86,406,610 | ¥81,837,450 | ¥76,540,083 | ¥70,399,529 | ¥63,280,437 | ¥55,027,773 | ¥45,460,608 | ¥39,003,773 | ¥34,369,699 |
| 6級 | ¥73,281,556 | ¥69,406,445 | ¥64,913,741 | ¥59,705,930 | ¥53,668,219 | ¥46,669,124 | ¥38,555,199 | ¥33,079,149 | ¥29,148,985 |
| 7級 | ¥61,250,256 | ¥58,011,357 | ¥54,256,261 | ¥49,903,464 | ¥44,857,019 | ¥39,007,029 | ¥32,225,241 | ¥27,648,244 | ¥24,363,331 |
| 8級 | ¥49,218,955 | ¥46,616,269 | ¥43,598,781 | ¥40,100,998 | ¥36,045,819 | ¥31,344,934 | ¥25,895,283 | ¥22,217,339 | ¥19,577,677 |
| 9級 | ¥38,281,410 | ¥36,257,098 | ¥33,910,163 | ¥31,189,665 | ¥28,035,637 | ¥24,379,393 | ¥20,140,776 | ¥17,280,152 | ¥15,227,082 |
| 10級 | ¥29,531,373 | ¥27,969,761 | ¥26,159,269 | ¥24,060,599 | ¥21,627,491 | ¥18,806,960 | ¥15,537,170 | ¥13,330,403 | ¥11,746,606 |
| 11級 | ¥21,875,091 | ¥20,718,342 | ¥19,377,236 | ¥17,822,666 | ¥16,020,364 | ¥13,931,082 | ¥11,509,015 | ¥9,874,373 | ¥8,701,190 |
| 12級 | ¥15,312,564 | ¥14,502,839 | ¥13,564,065 | ¥12,475,866 | ¥11,214,255 | ¥9,751,757 | ¥8,056,310 | ¥6,912,061 | ¥6,090,833 |
| 13級 | ¥9,843,791 | ¥9,323,254 | ¥8,719,756 | ¥8,020,200 | ¥7,209,164 | ¥6,268,987 | ¥5,179,057 | ¥4,443,468 | ¥3,915,535 |
| 14級 | ¥5,468,773 | ¥5,179,585 | ¥4,844,309 | ¥4,455,666 | ¥4,005,091 | ¥3,482,770 | ¥2,877,254 | ¥2,468,593 | ¥2,175,297 |
| ※基礎収入は、賃金センサス令和7年の平均賃金(男性:610万7000円、女性:437万0700円)を使用しています。 ※労働能力喪失期間は、55歳は14年、60歳は12年、それ以外は67歳までの年数で計算しています。 ※ライプニッツ係数は、国土交通省が公表している「就労可能年数とライプニッツ係数表」に基づいています。 ※逸失利益額が最も高くなる「弁護士基準(裁判基準)」で算出しています。あくまで目安であり、実際の金額には個別の事情を踏まえた計算が必要です。 |
逸失利益の請求が認められる条件
逸失利益は、どのようなケースでも自動的に認められるわけではありません。
請求が認められるためには、収入や労働能力に関するいくつかの条件を満たしている必要があります。
条件をひとつでも満たしていないと、請求自体が認められない可能性もあるため、事前に確認しておきましょう。
1. 収入実績または将来の労働能力(働く見込み)があるか
逸失利益を請求するには、事故前の収入実績、または未成年者や学生・専業主婦のように将来働く見込み(労働能力)があることが必要です。
これから先どれくらい収入が減るかを計算するもとになる数字だからこそ、実際の金額や、実績に代わる客観的な基準がはっきりしている必要があります。
前年の源泉徴収票に年収400万円と書かれている会社員や、賃金センサスをもとに収入が認められる専業主婦なども対象です。
賃金センサスとは、性別や年齢などの区分ごとの平均賃金をまとめた、厚生労働省の統計です。
収入実績がない方でも、賃金センサスのような客観的な基準があれば請求できる可能性があります。
2.労働能力が低下・喪失しているか
逸失利益の請求には、後遺障害や死亡によって働く力が制限されたまたは失われた事実が必要です。
実務上は、自賠責保険の後遺障害等級認定を受けることで、働く力が落ちたことを推認することが一般的です。
むちうちで後遺障害等級14級に認定され、労働能力が5%落ちたと認められるケースなどが該当します。
一方で、等級認定を受けていない場合は、働く力が落ちたことを立証することが困難となり、逸失利益の請求自体が難しくなる点に注意してください。
3.労働能力の喪失期間が認められるか
逸失利益の請求では、後遺症の影響がこれから先のどの期間まで続くかを認めてもらう必要があります。
損害賠償の実務では、等級や症状に応じて、働く力が制限される期間(就労可能年数)がある程度決まっているためです。
一般的に、後遺障害14級のむちうちでは症状固定から最大5年間、12級のむちうちでは最大10年間が喪失期間の目安として計算されます。
等級や症状によって期間は変わるため、自分のケースに当てはまる年数を知りたい場合は、専門家へ相談するのがおすすめです。
後遺障害逸失利益の正しい計算方法
後遺障害逸失利益の金額は、基礎収入、労働能力喪失率、ライプニッツ係数という3つの要素を掛け合わせて算出されます。
| 基礎収入 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数 = 後遺障害逸失利益 |
年齢や収入、等級によって金額が変わるのも、3つの要素がそれぞれのケースで異なる数値になるためです。
保険会社から提示された金額が妥当かどうかを判断するうえでも、計算方法を押さえておくと役立ちます。
基礎収入を算出する
基礎収入には、事故前年の実際の収入、または統計上の平均賃金を使います。
これから先の収入を予測するうえで、事故直前の年収や賃金センサスが最も客観的な根拠になるためです。
会社員であれば、前年の源泉徴収票に書かれた総支給額を使用します。
専業主婦の場合は、賃金センサスの女性全年齢平均賃金が基準です。
労働能力喪失率を確認する
労働能力喪失率とは、後遺障害によって働く力がどれだけ落ちたかを、割合で示したものです。
後遺障害の重さに応じて、5%から100%の範囲で算定されます。
14級であれば5%、12級であれば14%、8級であれば45%というように、等級ごとに割合が決まっています。(個別的な事情により上下することはあります。)
主な等級の目安は、以下の通りです。
| 後遺障害等級 | 労働能力喪失率 | 後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
| 第1?3級 | 100% | 第9級 | 35% |
| 第4級 | 92% | 第10級 | 27% |
| 第5級 | 79% | 第11級 | 20% |
| 第6級 | 67% | 第12級 | 14% |
| 第7級 | 56% | 第13級 | 9% |
| 第8級 | 45% | 第14級 | 5% |
ライプニッツ係数を掛けて中間利息を差し引く
賠償金を将来分もまとめて先に受け取ると、お金を運用して増やせてしまうことが想定されます。
この増えうる分(利益)を差し引くための数値が、ライプニッツ係数です。
差し引く割合は労働能力喪失期間の長さに応じて変わり、期間が長いほど係数も大きくなります。
例えば、10年分の収入減を補償してもらう場合、年収に10をそのまま掛けるのではなく、利息分を差し引いた8.5302というライプニッツ係数を掛けて計算します。
【ケース別】後遺障害逸失利益の計算例
後遺障害逸失利益の金額は、年齢や収入、等級によって大きく変わります。
ここでは、会社員や専業主婦など、異なる状況ごとの計算例を紹介します。
自分の状況に近いケースと照らし合わせることで、金額の目安を確認してください。
40歳会社員(年収600万円・後遺障害10級)の場合
このケースでの逸失利益は2,969万9,740円です。
| 600万円(基礎収入) × 27%(労働能力喪失率) × 18.3270(67歳までの27年分のライプニッツ係数) = 2,969万9,740円 |
働き盛りで収入が高く、67歳まで働ける27年間が残っていることから、高い金額の賠償が認められるケースといえます。
25歳会社員(年収300万円・後遺障害14級)の場合
このケースでの逸失利益は68万6,955円です。
| 300万円(基礎収入) × 5%(労働能力喪失率) × 4.5797(5年分のライプニッツ係数) = 68万6,955円 |
むちうちなどによる14級の場合、働ける力が落ちたと認められる期間が最大5年に制限されるため、金額は比較的低い傾向にあります。
年齢が若くても等級が軽ければ、労働能力喪失期間が短くなる点に注意してください。
35歳専業主婦(後遺障害12級)の場合
このケースでの逸失利益は、454万208円です。
| 380万円(女性全年齢平均賃金を基礎収入とする) × 14%(労働能力喪失率) × 8.5302(10年分のライプニッツ係数) = 454万208円 |
専業主婦であっても、家事という仕事にお金としての価値が認められ、12級の標準喪失期間である10年を使って計算されるのが特徴です。
収入がない、あるいは無職の方でも、賃金センサスをもとに請求できる可能性があります。
死亡逸失利益の正しい計算方法
死亡逸失利益の金額は、基礎収入、生活費控除率、ライプニッツ係数という3つの要素を組み合わせて算出されます。
| 基礎収入 × (1 - 生活費控除率) × ライプニッツ係数 = 死亡逸失利益 |
被害者が生きていれば得られたはずの収入から、生きていれば必ずかかっていた生活費相当額を差し引いたうえで、将来分の金額が決まる仕組みです。
死亡逸失利益は金額が大きくなりやすい項目だからこそ、計算の中身をしっかり押さえておいてください。
生活費控除率を差し引く
生活費控除率とは、死亡逸失利益を計算する際に、本人が生きていれば使っていたはずの生活費として差し引く割合のことです。
被害者の性別や家庭内での立場に応じて、30%から50%が差し引かれます。
実際の生活費で計算されるわけではないというのが実務です。
一家の支柱か独身かなどによって、本人が使うはずだった生活費の割合が、統計や実務をもとに決められています。
生活費控除率の目安は、以下のとおりです。
| 家庭内の立場 | 生活費控除率の目安 |
| 一家の支柱(被扶養者1人) | 40% |
| 一家の支柱(被扶養者2人以上) | 30% |
| 独身男性(独身、幼児等を含む) | 50% |
| 独身女性(主婦・独身・幼児等を含む) | 30% |
ライプニッツ係数を掛けて中間利息を控除する
死亡逸失利益の計算では、原則として死亡時から67歳までの年数に応じた係数を使います。
働ける年齢の上限を原則67歳として、その期間の利息分を法律で決まった割合で差し引く仕組みです。
40歳で亡くなった場合、67歳までの27年間に対応するライプニッツ係数(18.3270)を計算に使います。
【ケース別】死亡逸失利益の計算例
死亡逸失利益の金額は、年収や家族構成、年齢によって大きく変わります。
ここでは、会社員や独身の方など、異なる状況ごとの計算例を紹介します。
自分の状況に近いケースと照らし合わせることで、金額の目安を確認してください。
50歳男性会社員(年収900万円・妻子あり)の場合
このケースでの逸失利益は、8,294万6,430円です。
| 900万円(基礎収入) × (1-30%)(生活費控除率) × 13.1661(17年分のライプニッツ係数) = 約8,294万6,430円 |
高収入かつ一家の支柱にあたり、生活費控除率が30%と低く抑えられることから、金額が大きくなります。
30歳男性会社員(年収400万円・独身)の場合
このケースでの逸失利益は、4,366万4,600円です。
| 400万円(基礎収入) × (1-50%)(生活費控除率) × 21.8323(37年分のライプニッツ係数) = 約4,366万4,600円 |
働ける期間は長いものの、独身男性は生活費控除率が50%と高めに設定される分、金額はある程度調整されるのが特徴です。
扶養している家族がいるかどうかで控除率が変わる点も、あわせて押さえておいてください。
25歳女性会社員(年収300万円・独身)の場合
このケースでの逸失利益は、約3,900万円です。
| 300万円(基礎収入) × (1-30%)(生活費控除率) × 23.7016(42年分のライプニッツ係数) = 4,977万3,360円 |
基礎収入には、事故前の実収入を用いるのが基本です。
ただし、実収入が平均より低い若年者の場合は、将来的な昇給の見込みを踏まえて、女性の全年齢平均賃金を基礎収入とする主張が認められるケースもあります。
詳細な金額を知りたい場合は、弁護士に相談してみてください。
逸失利益を請求して受け取るまでの手順
逸失利益は、事故に遭ったからといって自動的に支払われるものではありません。
治療の経過から実際の受け取りまで、いくつかの段階を踏む必要があります。
ここでは、治療後の症状固定から賠償金の受け取りまでの流れを解説します。
1.治療終了と症状固定の診断を受ける
逸失利益の請求では、まず医師から、これ以上治療してもよくならないという症状固定の診断を受ける必要があります。
症状固定日をもって治療費や休業損害の請求期間が区切られ、症状固定日以降が後遺障害の対象期間として区分されるためです。
たとえば事故から6ヵ月通院し、主治医がこれ以上のよくなる見込みはないと判断した時点で、後遺障害診断書を作ってもらいます。
診断書の内容は等級認定の結果を左右するため、症状を医師に正確に伝えましょう。
2.後遺障害等級認定を申請する
症状固定の診断を受けたら、自賠責保険の損害調査機構に対して後遺障害等級の認定申請を行います。
実務上、自賠責の等級認定がなければ、加害者側の任意保険会社は逸失利益の支払いを認めないのが通例だからです。
医師に作ってもらった後遺障害診断書や画像データを揃え、被害者請求という方法で自賠責保険に直接提出することができます。
加害者側の保険会社に任せる事前認定という方法もありますが、被害者請求のほうが資料を自分で選べる分、納得のいく結果につながりやすいですが、本人が行うのは大変ですので、弁護士に依頼することをおすすめします。
3.加害者側との示談交渉を開始する
後遺障害等級の認定結果が出たら、保険会社と賠償金額について交渉します。
等級が確定することで初めて逸失利益の働く力が落ちた割合と期間が計算でき、総損害額の計算が可能になるためです。
14級の認定結果通知を受け取った後、保険会社から送られてくる示談金提示書面をもとに、金額が妥当かどうかを話し合っていきます。
提示された金額が低いと感じた場合は、根拠を示したうえで増額を求めてください。
4.示談が決裂した場合はADRや裁判へ移行する
話し合いで金額に折り合いがつかない場合は、第三者機関や裁判所を利用します。
保険会社は低い任意保険基準で提示してくることが多く、適正な弁護士基準を認めさせるためには、弁護士に依頼なさるか、法的手続きに移ることが必要になります。
逸失利益の働く力が落ちたと認められる期間について、保険会社が3年と主張して譲らない場合、裁判を起こして5年の認定を求めるといった対応が可能です。
期間が適正かどうかなどを早めに弁護士へ相談してください。
5.逸失利益を含む賠償金が支払われる
示談書にサインして保険会社に返送すると、治療費や慰謝料、逸失利益が合算された最終的な示談金が、指定口座に一括で振り込まれます。
示談で解決した場合はおおよそ2週間程度、ADRや裁判で決定した場合は1ヵ月以内に支払われるケースが多いです。
振込予定日を過ぎても入金がない場合は、担当者へ確認してみてください。
逸失利益がもらえない4つの原因
逸失利益は、後遺障害が残ったからといって、必ず受け取れるとは限りません。
特定の条件に当てはまると、請求そのものが認められなかったり、金額がゼロと判断されたりするケースがあります。
以下では、逸失利益がもらえなくなる主な原因を紹介します。
1.損害賠償請求権の時効が過ぎてしまっている
逸失利益は、症状固定日または死亡日から原則5年が経過すると請求できなくなる可能性があります(なお、交通事故発生日から起算するという見解もあります。)。
不法行為をもとにした損害賠償の請求権は、被害者が損害と加害者を知った時から5年で時効により消えると法律で定められているためです。
症状固定日から5年以上放置してしまった場合、どれほど重い後遺障害があっても、保険会社から時効を主張されたら逸失利益を受け取れません。
そのため、時効が近づいている場合は、早めに法的手続きを進めてください。
2.後遺障害等級に認定されていない
逸失利益は、自賠責保険で後遺障害等級が認定されなければ基本的に認定されません。
働く力が失われたという証明を、等級認定という手続きで示せなければ、実務上はこれから先の収入減が認められにくいからです。
むちうちで後遺障害診断書を提出したものの、非該当という結果になった場合、逸失利益の請求は原則として難しくなります。
後遺障害等級が認定されないことに納得がいかない場合は、異議申立という方法もあるため、弁護士に相談してみてください。
3.後遺障害による収入の減少がない・少ない
実際に収入が減っていない場合、保険会社から逸失利益を否定されることがあります。
逸失利益にはこれまでの収入減を埋め合わせる目的があるため、収入が減っていないなら損害も発生していない、と判断される余地があるからです。
公務員や会社役員などで、事故前と変わらず同じ給料を満額もらっている場合、保険会社から逸失利益ゼロと提示されるかもしれません。
ただし、昇進や昇給への影響が証明できれば、逸失利益が認められる可能性もあります。
4.労働能力の喪失が認められない
後遺症があっても、仕事に影響を与えない部位の場合は対象外になることがあります。
逸失利益はあくまで働く力が落ちたことへの埋め合わせであり、見た目の傷など、仕事に直接関係ない障害は対象外とされるためです。
顔や体に傷跡が残る後遺障害として認定されたものの、内勤の事務職で業務に支障がまったくないと判断された場合、逸失利益が認められにくいです。
ただし、傷跡が残ったこと自体に対する慰謝料は、業務への影響とは関係なく別途請求できます。
適正な逸失利益を獲得するための重要ポイント3つ
逸失利益は、進め方次第で受け取れる金額に差が出ることがあります。
保険会社主導で手続きを進めてしまうと、本来もらえるはずの金額より低く抑えられてしまうことも多いです。
以下では、適正な逸失利益を得るために押さえておきたいポイントを紹介します。
1.症状に見合った後遺障害等級認定を受ける
逸失利益を最大化するには、ひとつでも上の等級を取ることが重要です。
等級がひとつ違うだけで働く力が落ちた割合が大きく変わり、逸失利益の額に数百万円単位の差が生まれるためです。
12級と14級では労働能力喪失率が14%と5%で2倍以上の差があるうえ、喪失期間も変わります。
MRI画像などの医学的所見をしっかり提出して、適切な等級を目指してください。
2.損害賠償請求権の消滅時効に注意する
示談交渉が長引く場合は、時効が進むのを止める手続きが必要です。
交渉がまとまらなかったりして5年の消滅時効を迎えてしまうと、賠償金を受け取れなくなる危険性があるためです。
時効が近づいている場合は、時効の更新手続きをおこなったり裁判を起こしたりして、権利が消えるのを防ぐ対応が求められます。
手続きの判断に迷う場合は、早めに弁護士へ相談してみてください。
3.保険会社の提示額(任意保険基準)を鵜呑みにしない
保険会社が最初に提示してくる逸失利益の金額は、相場より大幅に低いケースが多いです。
保険会社は自社の支出を抑える独自の内部基準で計算しており、法律的に正当な裁判基準より低く設定されているためです。
保険会社が喪失期間を3年と計算してきたものを、弁護士が裁判基準で見直すと5年で認められ、金額が大きく増えることもあります。
提示額に納得がいかない場合は、増額の余地がないかを弁護士に確認するのがおすすめです。
交通事故の逸失利益を弁護士に依頼するメリット5つ
逸失利益の計算や交渉には専門的な知識が求められるため、自分で対応するよりも弁護士に依頼することで得られるメリットが数多くあります。
以下では、逸失利益を弁護士に依頼する5つのメリットを紹介します。
1.もらえる逸失利益の適正額を把握できる
弁護士に依頼すれば、自分の状況に合わせた正確な逸失利益の見込み額を計算してもらえます。
弁護士は過去の裁判例や算定基準に詳しいため、個別の事情を反映した正確な計算ができるからです。
主婦の家事労働分や、若い方の将来の昇給見込みなども適切に評価し、実態に近い金額を教えてくれます。
2.そのほかの損害賠償金も漏れなく請求できる
弁護士に依頼すれば、逸失利益以外の慰謝料や休業損害についても、請求漏れなく主張できます。
一般の方では気づきにくい損害の項目まで洗い出したうえで、それぞれ適正な基準を当てはめて請求してくれるからです。
例えば、後遺障害14級のケースでは、後遺障害慰謝料だけでも自賠責基準の32万円から、裁判基準の110万円へと3倍以上の差が生まれます。
3.逸失利益の増額が期待できる
弁護士に依頼すれば、過去の裁判例をもとにした弁護士基準での交渉により、大きな増額が見込めます。
弁護士が代理人となることで、要求が通らなければ裁判を起こすというプレッシャーが生まれ、保険会社が譲歩せざるを得なくなるためです。
保険会社の提示額が交渉や裁判を経て数倍にまで増額するケースもあり、当初500万円だった提示額が、最終的に1000万円を超える金額で決着することもあります。
4.示談交渉や裁判の手続きを全て一任できる
加害者側とのやり取りや書類作成は、思っている以上にストレスと手間がかかるものです。
弁護士に依頼すれば、示談交渉や必要書類の準備といった一連の手続きを全て任せられます。
日中仕事で電話に出られない被害者に代わり、弁護士が全ての窓口となって交渉を進め、進捗状況だけを報告してくれます。
連絡のやり取りに気を取られることなく、日常生活を送ることが可能です。
5.弁護士費用特約を利用すれば費用負担を抑えられる
自分の自動車保険に弁護士費用特約が付いていれば、実質無料で依頼できることが多いです。
弁護士費用特約とは、弁護士に相談・依頼する際にかかる費用を、契約している保険会社が代わりに負担してくれる制度です。
特約を使うと、保険会社が弁護士費用を上限300万円まで負担してくれるので、大半の事故ではこの範囲内に収まります。
特約が付いているかどうかは、加入している保険の契約内容から確認してみてください。
弁護士による逸失利益の獲得・解決事例
逸失利益は、弁護士の交渉次第で結果が大きく変わることがあります。
ここでは、弁護士のサポートによって逸失利益が認められた、または増額につながった事例を紹介します(裁判例を基に作成。)。
後遺障害による逸失利益の請求が認められた事例
自転車で横断歩道を走行中、右折してきたトラックと衝突し、胸椎骨折の傷害を負った事例です。
依頼後、弁護士が後遺障害の申請を行い、詳細な治療状況を立証するためのカルテもあわせて提出した結果、8級の認定を獲得。
示談交渉では逸失利益が争点となり、後遺障害の内容や仕事の内容、過去の裁判例をふまえて、労働能力喪失率と労働能力喪失期間が最大限認められるべきだと主張。
ほぼ主張どおりに認められ、最終的に示談金として1864万円を獲得しました。
後遺障害12級で67歳までの就労可能年数が認められた事例
歩道を通行中、同じ方向から来た自動車に衝突され、膝蓋骨骨折の傷害を負った事例です。
依頼後、弁護士が改めて損害額を計算し、相手方保険会社に提示しました。
その中で、後遺障害逸失利益の就労可能年数が争点となり、仕事の内容や後遺障害の内容から、67歳までの年数が認められるべきだと主張。
結果として、67歳までの就労可能年数が認められ、示談金を760万円増額できました。
女児の死亡事故で逸失利益など計7000万円の賠償が認められた事例
子どもを交通事故で亡くした遺族が、死亡事故の賠償金について不安を抱え、相談に訪れた事例です。
精神的なショックの中で事件対応や保険会社との交渉を担うのは大きな負担となるため、代理交渉などのサポートを行いました。
死亡逸失利益としては2389万8763円が認められました。
両親の精神的ダメージに加え、被害者の兄が事故の瞬間を目撃した事情も考慮され、子どもの死亡慰謝料と遺族固有の慰謝料をあわせて2900万円という結果に。
民事裁判を起こしたことで発生した遅延損害金や弁護士費用も加わり、最終的には7000万円の損害賠償を獲得しています。
逸失利益の相談なら「ベンナビ交通事故」
保険会社の提示額に納得がいかない方、逸失利益の増額交渉を弁護士に任せたい方には、ベンナビ交通事故がおすすめです。
全国の交通事故に強い弁護士事務所が多数登録されており、地域や初回相談無料などの条件で絞り込んで検索できます。
等級や事故の状況ごとの解決事例も掲載されているため、自分に近いケースを事前に確認できるのも心強いポイントです。
スマホから地域や「後遺障害」「死亡事故」などの相談内容を指定するだけで、自分に合った弁護士をすぐ見つけられます。
まずは無料相談で、自分のケースがどのくらい増額できそうか聞いてみてください。
逸失利益に関するよくある疑問・Q&A
逸失利益は、個々の状況によって扱いが変わる部分が多く、誤解も生まれやすいテーマです。
ここでは、よく寄せられる質問についてQ&A形式で解説します。
減収していない場合でも逸失利益は請求できますか?
減収がなくても、仕事に支障が出ていることや、本人の並々ならぬ努力を証明できれば請求は可能です。
今の収入が保たれていても、将来の不利益や特別な努力による収入維持は、損害として評価される可能性があるためです。
公務員など給料が下がりにくい職種でも、首の痛みを薬で抑えながら無理して働いている事情を主張すれば、逸失利益が認められるケースがあります。
逸失利益の金額が減額されることはありますか?
被害者側に過失があった場合や、持病が影響している場合は減額されることがあります。
損害賠償は公平という考え方に基づくため、被害者側の原因によって広がった損害分まで加害者に負担させることは、法律上認められないからです。
被害者の前方不注意で20%の過失がついた場合、計算された逸失利益の総額から20%分が差し引かれて支払われます。
専業主婦(主夫)や無職でも逸失利益はもらえますか?
専業主婦は家事労働が金銭的に評価され、無職でも働く意欲と能力があればもらえる可能性があります。
家事はお金としての価値がある労働とみなされ、無職の方でも将来働く見込みが高ければ、潜在的な働く力が認められるためです。
専業主婦は女性平均賃金をベースに計算され、就活中の学生も将来の平均賃金を基準に逸失利益が認められます。
逸失利益の対象期間は67歳までですか?
原則は67歳までですが、高齢者の場合は平均余命の半分とされるなど例外があります。
日本の一般的な働ける年齢の上限が67歳とされている一方、高齢者については実際の就労実態や余命を考える実務のルールがあるためです。
60歳で事故に遭った場合、67歳までの7年間と平均余命の半分の年数を比べ、長いほうが就労可能年数として採用されます。
提示された逸失利益が少なすぎると感じた場合はどうすべきですか?
示談書にサインせず、すぐに交通事故に強い弁護士に計算の妥当性を相談してください。
保険会社の提示額は低く抑えられていることがほとんどで、一度示談が成立すると後からやり直すことは原則できないからです。
多くの法律事務所では無料査定をおこなっており、提示書類を見せるだけで、増額の見込みや根拠を教えてもらえます。
まとめ
逸失利益は、後遺障害や死亡によって失われる将来の収入を補償するものであり、慰謝料や休業損害とは異なる基準で算定されます。
基礎収入・労働能力喪失率・ライプニッツ係数を組み合わせて計算されますが、実際の金額は等級認定の結果や交渉の進め方によって大きく変わります。
特に、保険会社の提示額は相場より低く抑えられていることが多く、鵜呑みにしてしまうと本来もらえるはずの金額を受け取れない可能性があるので注意が必要です。
また、逸失利益の請求には時効もあるため、少しでも疑問や不安を感じたら、示談書にサインする前に早めに「ベンナビ交通事故」で弁護士へ相談してください。
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この記事の監修者
澁谷 望 (第二東京弁護士会)
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