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自営業者でも休業損害を請求できる!計算方法や請求時のポイント、判例も紹介

監修記事
自営業者でも休業損害を請求できる!計算方法や請求時のポイント、判例も紹介

交通事故の被害が原因でけがの治療を受け、仕事を休業した場合は休業補償の請求ができます。

休業補償は自営業の方や個人事業主も請求できますが、受け取れる金額が会社員と比べて著しく少なくなったり、全く受け取れなかったりすることがあるため注意が必要です。

本記事では、個人事業主や自営業の方の休業損害の計算方法や、休業損害を請求する際のポイントと注意点について詳しく解説します。

交通事故に遭ったことで仕事ができなってしまった方は、ぜひ参考にしてください。

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目次

自営業や個人事業主でも休業損害の請求は可能!

自営業の方や個人事業主でも休業損害の請求は可能です。

事故によって自分が営業している店舗を開けられなくなったり、営業活動ができなくなったりした場合には、当然その損失分は補償されるべきといえます。

ただし、一般的に自営業の方は会社員と比べて請求通りの金額が支払われる可能性が低く、支払われたとしても金額が少なくなるなど、トラブルになるケースも少なくありません。

ただし会社員に比べトラブルになりやすい

個人事業主や自営業の方も休業損害の請求は可能ですが、請求したとおりの金額を受け取れるかどうかはわからないのが現状です。

会社員は客観的に「1日あたりの給料がいくらなのか」「けがによって何日休んだのか」を証明できるので、請求金額で保険会社と争いになりにくくなっています。

一方、個人事業主や自営業者の場合には、休業日数を誰かが客観的に証明してくれることはありませんし、収入も不安定です。

そのため、保険会社と休業損害の金額をめぐって争いになるケースがあるのです。

【基準別】自営業者・個人事業主の休業損害の計算方法

休業損害の計算方法には、自賠責基準と任意保険基準と弁護士基準という3つの基準があります。

それぞれの計算方法で受け取れる損害額は全く異なるため、どの程度異なるのかを把握しておきましょう。

詳細な計算方法と注意点について、以下で詳しく解説します。

自賠責基準の場合

自賠責基準では「日額6,100円×休業日数」で計算された金額が休業補償の基本的な金額になります。

しかし、1日あたりの報酬が6,100円を超える場合、6,100円を超えることを証明できれば19,000円を上限とした金額を受け取ることが可能です。

任意保険基準の場合

任意保険基準とは、各保険会社が独自で定めた基準によって休業補償額を計算する方法です。

保険会社によって計算方法や単価は異なるため詳細にいくらということはできませんが、基本的には自賠責基準で定められた金額と同じように設計されていることが一般的です。

弁護士基準の場合

弁護士基準では「基礎収入額(事故前年の確定申告書に記載の所得金額÷365日)×休業日数」で計算した金額が休業損害額となります。

つまり、現実に収入減のあった損害を請求できます。

1日あたり19,000円を超える金額を稼いでいる方は、自賠責基準よりも弁護士基準で計算したほうがメリットがあります。

なお、自賠責基準では休業損害を含めた傷害への損害賠償金は合計で120万円と決められていますが、弁護士基準では上限がありません。

そのため、弁護士基準が自賠責基準よりも高額になりやすいといえるのです。

弁護士基準の場合は前年度の確定申告書から計算する

弁護士基準で休業損害の金額を計算する際には、前年度の確定申告書をもとに1日あたりの休業損害額を算出します。

弁護士基準には、自賠責基準のように1日19,000円という上限はありません。

つまり、申告所得が「19,000円×365日=693万5千円」を超えた金額であれば、確実に弁護士基準のほうが自賠責基準よりも高額になります。

確定申告をしていない場合の対処法

確定申告をしていない方でも、休業損害の請求はできます。

しかし、確定申告書がない場合は次のような資料によって前年度分の所得を証明しなければなりません。

  • 帳簿
  • 通帳の入金履歴
  • 領収書など

前年度よりも所得が多い場合の対処法

前年度よりも所得が多い場合や、年度によって所得に変動がある場合は、直近3年〜5年の確定申告書を用いて、平均所得を算出したうえで損害額を算出します。

たとえば、所得が次のように推移する人の休業損害の金額を計算してみましょう。

直近3年間の所得
  • 令和2年:430万円
  • 令和3年:760万円
  • 令和4年:550万円
直近3年間の平均年間所得
  • (430万円+760万円+550万円)÷3年=580万円
1日あたりの休業損害額
  • 580万円÷365日=1万6千円(千円未満四捨五入)

自営業者や個人事業主は、会社員と比べて年による所得の変動が激しい傾向にありますが、その場合には過去3年〜5年程度の平均で所得が計算されるため、前年の申告所得が低いからといって損をすることはありません

自営業者・個人事業主が休業損害請求をする際の3つのポイント

自営業者や個人事業主が休業損害を請求する際には以下の3つのポイントが重要です。

  • 固定経費の一部は所得に加算可能
  • 休業日数は入院・通院日数で計算するのが原則
  • 自営業者や個人事業主の場合、休業損害証明書は必要ない

自営業者の損害額の計算方法は、会社員と異なります

また、休業日数の考え方等についてもしっかりと理解しておきましょう。

休業損害を請求する際の3つのポイントを解説します。

固定経費の一部は所得に加算可能

自営業者や個人事業主が休業損害を計算する際、固定経費の一部を所得に加算して以下のように計算が可能です。

(事故前年度の確定申告書における所得金額+損害として認められた固定経費)÷365日

なお、固定経費とは営業しているか否かにかかわらず支払いが発生する経費で、具体的には次のようなものがあります。

  • 人件費
  • 水道光熱費
  • 店舗の賃料
  • 駐車場代
  • 保険料
  • 税金(個人事業税、自動車税など)

事故によるけがが原因で営業できなかった場合も、これらの固定経費の支払いは発生します。

けががなければ営業をおこない、固定経費の支払いに必要な売上を稼げていたことを考えると、固定経費は加害者側に負担させるべきものと考えられるのです。

保険会社では固定経費を加味せず、申告所得のみで休業損害を計算することがあるため、固定経費が加味されているかどうか必ず確認しましょう。

休業日数は入院・通院日数で計算するのが原則

自営業者や個人事業主が休業日数を計算する際には、実際に入院や通院をした期間によって計算するのが基本です。

入院日数は診断書などから簡単に証明できますが、通院期間は全体の治療期間や実際に通院した日数、けがの内容や治療経過などから総合的に判断されます。

通院期間の証明は医師の診断書が有効ですので、けがによって就労できない旨やその原因について記載してもらいましょう。

自営業で入通院日でなく自己判断で休んだ日は休業損害が認められない可能性が高い

自営業者は、入通院日数を基準として休業日数が計算されます。

そのため、入院や通院をせずに「けがの痛みが強いから」などの理由で仕事を休んだ場合には、休業損害が認められない可能性が高いでしょう。

会社員であれば、自己判断で休業しても会社が証明書を作成してくれるので、休業日数として認められる可能性がありますが、自営業者や個人事業主は自己判断の休業では補償を得ることが難しくなります。

休業するのであれば通院をするか、医師に診断書に「自宅療養が必要」などと記載してもらうようにしてください。

自営業者や個人事業主の場合、休業損害証明書は必要ない

自営業者や個人事業主の場合、休業損害証明書は必要ありません。

休業損害証明書とは、会社が従業員の休業を客観的に証明する書類です。

しかし、自営業者や個人事業主が休業損害証明書を作成するということは、自分の休業を自分で証明することとなるため、客観性がなく、信憑性も非常に低くなってしまいます。

そのため、自営業者や個人事業主は休業損害を請求する際に、休業損害証明書の提出は不要です。

その代わり、医師の診断書などから休業日数を証明しなければなりません。

自営業者や個人事業主が休業損害を受け取れない可能性が高まる2つのケース

次の2つのケースでは休業損害を受け取れない可能性があります。

  • 休業によって収入が減らなかった場合
  • もともと赤字経営だった場合

特に個人事業主や自営業者は、税金対策で所得を著しく少なくしている可能性が高いため、十分に注意しなければなりません。

自営業者や個人事業主が休業損害を受け取れない可能性が高い2つのケースについて詳しく解説します。

休業によって収入が減らなかった場合

休業しても収入が減らなかった場合には、休業損害の補償を得られない可能性があります。

なぜなら、休業損害はそもそも休業によって生じた損害額を補填するものだからです。

しかし、収入が減っていなくても次のようなケースでは、休業損害の補償を得られる可能性があります。

  • 家族が代わりに働いたことで減収を免れた場合
  • 事故前におこなった営業活動の成果によって事故後に減収しなかった場合

本人は働けないものの、減収しなかったことに対して何らかの理由がある場合には、休業損害が認められる可能性があります。

ただし、減収しなかったこととその理由の因果関係を証明するのは困難なので、この点は保険会社と争いになりやすいポイントでしょう。

不安な方は弁護士へ相談してください。

もともと赤字経営だった場合

赤字経営だった場合や、過少申告によって所得なしで申告していた場合には、基本的に休業損害の対象にはなりません

しかし、次のようなケースでは休業損害が認められる可能性はあります。

  • 休業によって赤字が拡大した場合
  • 固定経費が発生している場合

休業によって赤字が拡大した場合は、休業によって拡大した損失を加害者が補填すべきという考えが成り立つ場合があります。

また、赤字企業であっても固定経費は発生するため、休業によって固定経費の支払額を稼げなかった場合には、固定経費をもとに休業損害を算出して請求できるケースがあります。

ただし、これらはあくまでも例外的な考えです。

基本的には赤字の場合の休業補償は支給されないので、赤字で休業損害の補償を受けたい場合には弁護士へ相談しましょう。

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自営業者・個人事業主が休業損害を請求する流れ

自営業者や個人事業主が休業損害を請求する流れは次のとおりです。

  1. 加害者側の保険会社に必要書類を提出し休業損害を請求
  2. 加害者側の保険会社が休業損害額を算定し被害者側に金額を提示
  3. 提示された内容をもとに示談交渉をおこなう
  4. 双方が合意できれば示談成立
  5. 示談した金額が休業損害として被害者側へ支払われる

自営業者の場合は、確定申告書の控えや医師の診断書とともに休業損害を請求します。

休業損害証明書は必要ありません。

自営業者・個人事業主の休業損害に関する判例・交渉例

自営業者や個人事業主が休業損害を実際に獲得した事例や、全く獲得できなかった事例を紹介していきます。

個人タクシー運転手の休業損害が認められた判例

事故当時50代の個人タクシー運転手Xが、事故により休業を余儀なくされたケースです。

以下、千葉地裁の判決です。

「証拠によると、Xは、平成18年9月22日から同年12月10日まで80日間休業をしたこと、Xの平成17年分の収入は304万6,787円であり、必要経費(固定経費である租税公課、損害保険料、減価償却費、地代家賃を除く)を控除した1日当たりの所得は4,822円となることを認めることができる。したがって、80日分の休業損害として38万5,760円を認めるのが相当である。」

このケースでは、「前年収入から固定経費を差し引いた1日あたりの所得×休業日数分」の休業損害が支払われました。

事故による減収はなかったが、150万円以上の休業損害を獲得した交渉例

事故によって減収がなくても高額な休業損害を受け取っている事例もあります。

追突によって頚椎捻挫・腰痛症の傷害を負った男性が手のしびれ、首の痛みや痺れが残ったケースです。

この男性は所得の減収はありませんでしたが、弁護士は男性から確定申告書や損益計算書等を取り寄せ、請求し得る費目を検討した上で休業損害の請求をおこないました。

「男性が痛みや痺れに苦しみながら努力をした結果、収入を維持することができた」と保険会社に説明し、最終的には保険会社から通院期間約1年間における所得の30%程度である150万円以上の休業損額を獲得しています。

実際に減収がなくても、収入を維持するためにこれまで以上の労力や対価を支払っているのであれば休業損害が認められる可能性があるといえるでしょう。

粘り強く交渉し、休業損害の額を約15万円から約200万円まで増額した事例

飲食店経営者がバイク運転中の事故について休業損害を請求したところ、1日あたり5,700円と不当に低い金額の補償を保険会社から提案された事例です。

このケースでは、直近1年間の確定申告から計算すると1日あたりの休業損害が非常に低い金額となり、休業損害額も非常に少なくなっていました。

しかし、弁護士が過去3年分の確定申告書をもとに粘り強く交渉した結果、休業損害は当初の15万円から200万円程度まで増額しています。

保険会社の計算に任せず、被害者側でも計算して粘り強く交渉することが重要であることがわかる事例です。

事故後の収入が増加しており、休業損害が否定された判例

事故後の収入が増加したことによって、休業損害が否定された事例です。

放送作家の男性が事故に遭い、休業損害を争っていましたが、裁判所は次のような理由で休業損害を否定しました。

  • 被害者の業務態様に時間的な自由度が高い
  • 通院先が自宅兼事務所の近くで業務に支障をきたさない形での通院が可能
  • 実際の収入は増加している

事故に遭っても収入が増加しており、通院も仕事に影響がないと考えられるこのような事例では、休業損害が認められない可能性があります。

仕事ができており減収もなかったとして休業損害が否定された判例

工務店の現場業務・経営者が事故の被害に遭い「減収が生じていないのは、痛みや耳鳴を我慢しつつ、能率の低下を補うために、長時間あるいは休日の作業をしていたため」と主張して、休業損害を争ったケースです。

裁判所は「現に仕事をすることができたのであれば休業を余儀なくされたとはいえない」と判断して休業損害を認めませんでした。

この事故では、自賠責が「耳鳴りの後遺障害(12級)と「背中の痛みや腰痛等の後遺障害(12級)」の後遺障害に認定しています。

そのうえで、裁判所は「背中の痛みや腰痛等の後遺障害(12級)」については事故との因果関係を認め、「労働能力喪失率5%、喪失期間10年間の逸失利益」を認めています。

症状固定後の逸失利益については認めているのに、治療期間中の休業損害については認めないという非常に珍しい判決であるといえるでしょう。

自営業者・個人事業主の休業損害請求についてよくある質問

ここからは、自営業者や個人事業主の休業損害請求ついてよくある質問を紹介します。

  • まだ開業していなくても休業損害は請求できる?
  • 増収が見込まれていた場合の休業損害はどうなる?
  • 夫婦で自営業をしている場合はどうやって計算する?
  • 外注や応援を依頼した場合の費用は請求可能?
  • 交通事故によって廃業した場合はどうなる?
  • 交通事故による休業で取引先との契約が解除されてしまった場合は?

似たような悩みを抱えている方は、ここで疑問を解消しましょう。

まだ開業していなくても休業損害は請求できる?

開業していなくても、これまでの収入や開業準備の進み具合によっては、休業損害を請求できます

交通事故がなければ開業準備に遅れがなく、開業していた可能性が高いと判断された場合には、前職の収入などを考慮して計算された休業損害額が支給される可能性があります。

ただし、開業準備の進捗状況や、交通事故がなかった場合の開業の蓋然性などは保険会社と争う可能性が高い部分ですので、心配な方は弁護士へ相談しましょう。

増収が見込まれていた場合の休業損害はどうなる?

事業拡大の途中で事故に遭った場合、「事故がなければ増収できていた可能性が高い」と判断されれば、見込まれていた増収分を加味して休業損害が算定される可能性があります。

ただし、事業計画等を精査し、事故がなければどの程度の増収が見込まれていたのかを客観的に証明しなければなりません

夫婦で自営業をしていた場合はどうやって計算する?

夫婦で自営業を営んでいた場合には、所得は被害者1人で稼いだものではなく、夫婦で稼いでいることになります。

そのため、被害者の申告所得から配偶者の寄与分を控除して、基礎所得額を計算するのが基本的です。

なお、配偶者の寄与分は事業規模・事業形態・配偶者の関与の割合などを加味して決定します。

外注や応援を依頼した場合の費用は請求可能?

事故によって休業を余儀なくされた際、自分が働けなくなった代わりに外注や応援を依頼した場合の費用は休業損害として請求可能です。

実際に、外注や応援を依頼した分の費用の支払いを認めた判決もあるので、外注や応援を依頼した場合にはその金額の支払いを受けられる可能性が高いでしょう。

交通事故によって廃業した場合はどうなる?

交通事故のけがが原因で仕事ができなくなってしまったり、生産性が低下して赤字になったりすることを原因として廃業した場合は、休業損害ではなく後遺障害の程度によって逸失利益の請求ができます

ただし、事故と廃業との因果関係が明確でない場合には、請求が認められない場合もあるので、事故後に廃業してしまった場合には弁護士へ相談しましょう。

交通事故による休業で取引先との契約が解除されてしまった場合は?

交通事故でけがを負って休業している間に取引先から契約を解除されてしまう可能性もあるでしょう。

この際には契約解除に伴う損失額を加害者側へ請求できます。

過去の判例でも契約解除による損害額の支払いを命じた判決があるので、取引先から契約解除されてしまった方は弁護士へ相談しましょう。

さいごに|休業損害を請求したい個人事業主・自営業者の方は弁護士へ相談を!

休業損害は個人事業主や自営業者も請求できます。

しかし、個人事業主や自営業者は休業日数の証明が難しく、収入も不安定な分、会社員が休業損害を請求するのと比べると保険会社と争いになる可能性が高いでしょう。

また、固定経費の算入など専門的な知識が必要になる場面も多いため、個人事業主や自営業者の方は休業損害を請求したいのであれば、交通事故問題に詳しい弁護士へ相談しましょう

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この記事の監修者
佐藤 光太 (札幌弁護士会)
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編集部

本記事はベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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