自賠責保険の慰謝料ガイド | 基本的な計算方法と請求手続きの流れを解説
損害保険料率算出機構の「2023年度 自動車保険の概況」によると、自家用普通乗用車の任意保険加入率は82.6%で、17.4%の方は任意保険に加入していないということがわかりました。
加害者が任意保険に加入していれば、被害者は十分な補償を受けられます。
しかし、未加入の場合には補償される金額は自賠責保険の上限額までとなります。
「加害者が任意保険に加入していない」という理由だけで、本来受け取れるはずの慰謝料を請求できなくなってしまうのは、被害者にとって納得できないでしょう。
本記事では自賠責保険の基礎知識、慰謝料の計算方法と請求手続の流れについて紹介します。
自賠責保険の慰謝料について詳しく知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
自賠責保険の基礎知識|慰謝料の種類と限度額
自動車保険には、「自賠責保険」と「任意保険」があります。
この二つの自動車保険には、補償の上限額や補償範囲に違いがあります。
まずは、自賠責保険と任意保険の基本的な違いについて確認しましょう。
自賠責保険とは?任意保険との違い
自賠責保険とは、原動機付自転車を含む全ての自動車に加入が義務付けられている自動車保険です。
被害者を救済するために設けられた保険であり、交通事故で発生したけがに対して、最低限の補償を提供します。
「自賠責保険に加入していなければ運転できない」とされており、自賠責保険に未加入だった場合には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。
また無保険での運転は交通違反となり、免許停止処分に相当する違反点数6点が付されます。
一方、任意保険とは、運転者(被保険者)が自ら加入する自動車保険のことです。
任意保険は自賠責保険を上回る賠償金が必要な場合に備えて加入する保険で、自賠責保険よりも補償の限度額が大きく、補償の範囲が広いという特徴があります。
両保険の主な補償の違いは以下のとおりです(対人対物賠償保険以下、人身傷害保険等は必ずしも付帯されるわけではないので、注意が必要です。)。
補償内容 | 自賠責保険 | 任意保険 |
---|---|---|
対人賠償保険 | 補償あり | 補償あり |
対物賠償保険 | 補償なし | 補償あり |
人身傷害保険 | 補償なし | 補償あり |
自損事故保険 | 補償なし | 補償あり |
車両保険 | 補償なし | 補償あり |
自賠責保険はあくまでも、人身事故のみの補償になります。
そのため、物損事故については補償の対象外であることに注意しましょう。
また任意保険は、契約内容によって補償額が異なるものの、自賠責保険ではカバーしきれない部分について補償してくれます。
自賠責保険における3つの慰謝料と限度額
自賠責保険で補償されるのは対人賠償保険だけであり、交通事故に伴う傷害・後遺障害・死亡のいずれかの損害についてのみ補償を受けられます。
また、これら3つの損害請求には、それぞれ限度額が設けられています。
限度額とは傷害による損害、後遺障害による損害、死亡による損害といった損害全体に支払われる保険金の上限額のことです。
たとえば、入通院慰謝料の限度額に120万円と記載されていますが、この限度額は治療関係費(治療費・通院交通費など)、慰謝料、文書料、休業損害などの合計金額からなります。
万が一限度額以上の損害が発生してしまった場合は、自賠責保険では補償されないため直接、加害者に請求しなければなりません。
各損害における限度額は、以下のとおりです。
損害の内容 | 限度額 |
---|---|
障害における損害 | 120万円 |
後遺障害における損害 | 75万円~4,000万円 |
死亡における損害 | 3,000万円 |
なお、それぞれの損害項目のうち、最も大きな金額になるのが慰謝料です。
慰謝料とは、精神的な苦痛に対して支払われる賠償金のことを指します。
以下に、自賠責保険で請求できる慰謝料と、それぞれの特徴をまとめておくので確認してみましょう。
慰謝料 | 慰謝料の特徴 |
---|---|
入通院慰謝料 | 交通事故でけがをして入院や通院が必要なときに受け取れる慰謝料 |
後遺障害慰謝料 | 交通事故によって後遺症を負ってしまったときに受け取れる慰謝料 |
死亡慰謝料 | 交通事故によって死亡してしまったときに遺族が受け取れる慰謝料 |
自賠責保険の慰謝料の計算方法
自賠責保険の場合、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料といった慰謝料額は「自賠責基準」と呼ばれる支払い基準に従って計算されます。
それぞれの具体的な計算方法を確認しましょう。
1.入通院慰謝料
自賠責保険の入通院慰謝料は、日額4,300円であるため「4,300円×治療に要した日数・期間」で計算されます(2020年3月31日以前の事故は1日あたり4,200円)。
対象日数については、被害者の傷害の程度や実治療日数などを踏まえて計算されるのが一般的です。
この治療に要した日数は、以下のいずれかのうち金額が少ないほうが適用されます。
- 4,300円(2020年3月31日以前の事故は4,200円)×治療期間
- 4,300円(2020年3月31日以前の事故は4,200円)×実治療日数×2
通院期間・実治療日数別の入通院慰謝料の目安
通院期間 | 実治療日数 | 入通院慰謝料 |
---|---|---|
1ヵ月(30日) | 5日 | 843,000円(②で計算) |
20日 | 129,000円(①で計算) | |
2ヵ月(60日) | 25日 | 215,000円(②で計算) |
35日 | 258,000円(①で計算) | |
3ヵ月(90日) | 40日 | 344,000円(②で計算) |
60日 | 387,000円(①で計算) |
2.後遺障害慰謝料
自賠責保険の後遺障害慰謝料は、認定された後遺障害等級に応じて支払われます。
その程度は「等級」という形で第1級〜第14級の14段階で評価されます。
後遺障害等級ごとの慰謝料金額と限度額は、以下のとおりです。
等級 | 慰謝料金額 (2020年3月31日以前の事故) |
(慰謝料を含む)限度額 |
---|---|---|
第1級 | 1,650万円(1,600万円) | 4,000万円 |
第2級 | 1,203万円(1163万円) | 3,000万円 |
等級 | 慰謝料金額 (2020年3月31日以前の事故) |
(慰謝料を含む)限度額 |
---|---|---|
第1級 | 1,150万円(1,100万円) | 3,000万円 |
第2級 | 998万円(958万円) | 2,590万円 |
第3級 | 861万円(829万円) | 2,219万円 |
第4級 | 737万円(712万円) | 1,889万円 |
第5級 | 618万円(599万円) | 1,574万円 |
第6級 | 512万円(498万円) | 1,296万円 |
第7級 | 419万円(409万円) | 1,051万円 |
第8級 | 331万円(324万円) | 819万円 |
第9級 | 249万円(245万円) | 616万円 |
第10級 | 190万円(187万円) | 461万円 |
第11級 | 136万円(135万円) | 331万円 |
第12級 | 94万円(93万円) | 224万円 |
第13級 | 57万円 | 139万円 |
第14級 | 32万円 | 75万円 |
※:第1級または第2級と認定された人で被扶養者がいる場合は慰謝料金額が増額される
3.死亡慰謝料
自賠責保険の死亡慰謝料は、死亡した被害者本人と遺族の精神的な苦痛に対して支払われます。
死亡慰謝料を請求できる遺族は、被害者の父母、配偶者、子ども(認知された子と胎児を含む)となっており、請求権者の人数に応じて最大1,350万円まで慰謝料を受け取ることができます。
死亡慰謝料の計算方法は、以下のとおりです。
請求する要項 | 慰謝料金額 |
---|---|
死亡者本人に対する慰謝料 |
400万円 (2020年3月31日以前の事故の場合は350万円) |
慰謝料を請求する遺族が1人の場合 | 550万円 |
慰謝料を請求する遺族が2人の場合 | 650万円 |
慰謝料を請求する遺族が3人の場合 | 750万円 |
死亡者に扶養されていた場合 | 200万円 |
遺族慰謝料請求権者の人数別の死亡慰謝料の目安
遺族慰謝料請求権者の人数 | 扶養の有無 | 請求できる慰謝料額 |
---|---|---|
0人 | なし | 400万円 |
1人 | なし | 950万円 |
あり | 1,150万円 | |
2人 | なし | 1,050万円 |
あり | 1,250万円 | |
3人 | なし | 1,150万円 |
あり | 1,350万円 |
自賠責保険で慰謝料以外にもらえる補償内容
自賠責保険で補償される内容は慰謝料だけではありません。
120万円の限度額を上限としながらも、慰謝料以外に以下のような補償内容が含まれます。
- 治療関係費
- 休業損害
- 逸失利益
- 文書料
- 葬儀費用 など
ここでは、なかでも「休業損害」と「逸失利益」について、自賠責保険でどの程度の補償を受けられるのか見ていきます。
休業損害
休業損害は、交通事故の影響で仕事を休まざるを得なくなった方に対して、減少した収入分を補償するためのものです。
自賠責保険基準では「日額6,100円×休業日数分」が補償金額として支払われます(2020年3月31日以前については日額5,700円)。
逸失利益
逸失利益は、交通事故の影響で労働できなくなるなど、本来であれば得ることができた将来的な収入の減少を補償するためのものです。
逸失利益には「後遺障害逸失利益」と「死亡逸失利益」のふたつがあり、種類によって計算方法が異なります。
後遺障害が残ったことで労働能力が喪失したとき、又は喪失した期間が生じたときなどに補償金額が支払われます。
自賠責保険の慰謝料の請求手続き
自賠責保険の慰謝料を請求する方法には、被害者が損害保険会社に直接請求する「被害者請求」と、加害者に請求手続きをしてもらう「加害者請求」の2つがあります。
1.被害者請求
被害者請求とは、加害者が加入している損害保険会社に対して、交通事故の被害者が損害賠償金を直接請求する手続きのことです。
自動車損害賠償保障法(自賠法)第16条に規定されている手続きで、加害者が支払いを拒絶している場合や任意保険会社との交渉が難航している場合に利用できます。
以下では手続きの流れを詳しく解説しているので、確認してみてください。
- 加害者が加入している自賠責保険会社を特定する
- 加害者が加入している自賠責保険会社から請求書を取り寄せる
- 請求書と必要書類を用意し自賠責保険会社に請求書類を提出する
- 自賠責保険会社から損害保険料率算出機構に請求書類が送付される
- 保険料率機構で損害調査がおこなわれ、自賠責保険会社に結果が報告される
- 保険料率機構の結果をもとに自賠責保険会社は被害者に自賠責保険金を支払う
提出書類 | 傷害 | 後遺障害 | 死亡 |
---|---|---|---|
保険金・損害賠償額・仮渡金支払請求書 | 必要 | 必要 | 必要 |
交通事故証明書 | 必要 | 必要 | 必要 |
事故発生状況報告書 | 必要 | 必要 | 必要 |
医師の診断書、死体検案書(死亡診断書) | 必要 | 必要 | 必要 |
診療報酬明細書 | 必要 | 必要な場合もある | 必要 |
付添看護自認書または看護料領収書 | 必要な場合もある | ー | 必要な場合もある |
休業損害証明書 | 必要な場合もある | 必要な場合もある | 必要な場合もある |
印鑑証明書 | 必要 | 必要 | 必要 |
委任状および印鑑証明書 | 必要な場合もある | 必要な場合もある | 必要な場合もある |
戸籍謄本 | 必要 | ー | 必要 |
後遺障害診断書 | ー | 必要 | ー |
レントゲン写真等 | 必要な場合もある | 必要な場合もある | 必要な場合もある |
2.加害者請求
加害者請求とは、加害者が被害者に損害賠償金を支払ってから、加害者が自分の加入している自賠責保険会社に対して保険金を請求する手続きのことです。
自賠法第15条に規定されている手続きで、自賠責保険の本来のあり方に近いものとなっています。
時効期間に注意する
自賠責保険の被害者請求や加害者請求をおこなう際には、時効期間についても注意する必要があります。
なぜなら、時効期間を過ぎてしまうと、損害を相手方に請求できなくなるからです。
自賠責保険には、損害の内容ごとに法律で定められた時効期間があります。
具体的な時効期間は、以下のとおりです。
損害の内容 | 時効期間 |
---|---|
障害における損害 | 事故日の翌日から3年 |
後遺障害における損害 | 症状固定日の翌日から3年 |
死亡における損害 | 死亡日の翌日から3年 |
必ず自賠責保険の時効期間が過ぎる前に、請求するようにしましょう。
被害者請求と加害者請求のメリット・デメリット
被害者請求と加害者請求には、それぞれにメリット・デメリットがあります。
それぞれのメリットとデメリットを把握したうえで適切なほうを検討する必要があります。
具体的なメリット・デメリットは以下のとおりです。
請求方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
被害者請求 |
・示談成立前でも保険金を受け取れる ・必要な書類や内容を十分精査できる ・後遺障害認定の申請もおこなえる |
・書類を準備する手間や時間がかかる ・被害者請求の対象外になるケースがある |
加害者請求 |
・相手に資力があれば迅速に支払われる ・被害者自身が書類を用意する必要がない |
・書類内容などの透明性を確保できない |
被害者請求では、示談成立前でも保険金を受け取れますが、自身で書類を用意しなければならないなど、準備に手間や時間がかかります。
一方で、加害者請求は加害者側が必要書類の収集や申請をおこなってくれるため、請求に手間がかかりません。
しかし、書類の透明性が確保できないため、不利な内容で申請される可能性があります。
そのため、適切な後遺障害等級認定を受けられないおそれがあるのです。
自賠責保険の慰謝料を早くもらう方法
自賠責保険の慰謝料を早くもらうためには、以下の方法が考えられます。
仮渡金制度を利用する
仮渡金制度とは損害賠償額が確定する前に、保険会社から葬儀費や治療費のような損害賠償金の一部を先払いしてもらう制度です。
自賠法第17条に規定されており、被害者が死亡している場合は290万円、傷害の場合はその程度に応じて5万円、20万円、40万円を請求することができます。
仮渡金の請求方法は、基本的には被害者請求の手続きの要領と同じです。
まずは、加害者が加入している自賠責保険会社に連絡して、請求書を取り寄せ、手続きの仕方を聞きましょう。
自賠責保険の慰謝料は相場より少ない場合がある
自賠責保険の慰謝料金額を算定するときには、自賠責保険基準で計算されます。
この基準は、最低限度を補償するためのものであるため、任意保険基準や弁護士基準と比べて金額が低くなります。
特に最も高額である弁護士基準と比較すると、慰謝料の金額は半分から3分の1程度になってしまうことも珍しくありません。
たとえば、後遺障害慰謝料における自賠責保険基準と弁護士基準の慰謝料金額は、以下のとおりです。
等級 | 自賠責保険基準 (2020年3月31日以前の事故) |
弁護士基準 (裁判基準) |
---|---|---|
第1級 | 1,150万円(1,100万円) | 2,800万円 |
第2級 | 998万円(958万円) | 2,370万円 |
第3級 | 861万円(829万円) | 1,990万円 |
第4級 | 737万円(712万円) | 1,670万円 |
第5級 | 618万円(599万円) | 1,400万円 |
第6級 | 512万円(498万円) | 1,180万円 |
第7級 | 419万円(409万円) | 1,000万円 |
第8級 | 331万円(324万円) | 830万円 |
第9級 | 249万円(245万円) | 690万円 |
第10級 | 190万円(187万円) | 550万円 |
第11級 | 136万円(135万円) | 420万円 |
第12級 | 94万円(93万円) | 290万円 |
第13級 | 57万円 | 180万円 |
第14級 | 32万円 | 110万円 |
このように自賠責基準が適用される自賠責保険の慰謝料は、判例に基づいた相場より少なくなってしまいます。
過去の裁判の判例を基にした適正な慰謝料金額を受け取りたい場合には、弁護士に依頼したうえで、弁護士基準で慰謝料を算定してもらうのがおすすめです。
自賠責保険の慰謝料に関してよくある質問
自賠責保険の慰謝料に関してよくある質問・疑問に回答します。
Q1.自賠責保険の慰謝料はいつ支払われるか?
自賠責保険の慰謝料が受け取れるタイミングは、基本的に示談が成立してからとなります。
また、示談の開始タイミングは、被害者の治療が終了してからが一般的です。
そのため、実際に慰謝料を受け取れるのは事故から時間が経ってからになることが多いでしょう。
当座の費用を工面する必要があるなら、仮渡金制度を検討するとよいでしょう。
Q2.自賠責保険の7日加算とはどんな意味か?
自賠責保険の入通院慰謝料を計算する際に「7日加算」が適用されることがあります。
7日加算とは、診断書に治癒見込、継続、転医、中止などと書かれた場合に、通院期間を7日間プラスするという仕組みです。
必ずしも受け取れる慰謝料が増えるわけではありませんが、条件によっては7日加算が適用されることで慰謝料額が増加します。
Q3.自賠責保険の一括払いとはどんな制度か?
自賠責保険の一括払い制度とは、加害者が自動車保険(任意保険)に加入している場合に、その任意保険会社が自賠責保険分の保険金も支払うという制度のことです。
任意保険会社と自賠責保険会社が同じ場合もありますが、別々の会社であった場合はそれぞれの保険会社に保険金を請求しなければなりません。
しかし、それでは手続きが煩雑になってしまうため、任意保険会社が一括で支払い、その後、保険会社同士で保険金のやり取りをしてくれます。
Q4.自賠責保険では過失相殺が適用されない?
任意保険の場合は、加害者と被害者の過失割合に応じて損害賠償額が調整されます。
しかし、自賠責保険には被害者保護という目的があるため、被害者の過失割合が7割未満であれば過失相殺がされません。
そのため「減額はなし」となります。
また、過失割合が7割以上の場合でも、傷害に関する損害賠償であれば「2割減額」となっています。
被害者側に重大な過失があったとしても、自賠責保険の範囲内であれば補償を受けられる可能性が高いでしょう。
さいごに|加害者が自賠責保険だけなら弁護士に相談
交通事故の加害者が自賠責保険しか加入していない場合、「相場どおりの十分な補償が受けられない」「加害者と直接交渉をしなければならない」などデメリットが大きくなります。
このような不利益や負担を考えると、事前に交通事故を得意としている弁護士に相談するのがおすすめです。
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