高齢者が死亡した際の慰謝料はいくら?慰謝料相場・高額事例を解説
死亡事故の被害者の属性により、慰謝料額が若干増減することは実務的にはあり得ます。
例えば、一家の大黒柱である人間が死亡した場合とそうではない者(例えば同居する祖父母等)が死亡した場合では、慰謝料額に開きがあることが多いです。これは被害者の属性で命の重さに差異があるという意味ではなく、残された遺族の生活に対する影響の多寡を考慮したものと考えられています。
この記事では、死亡事故の被害者が高齢者であった場合に遺族が請求できる慰謝料の相場と、慰謝料を増額するポイントをご紹介します。万が一、同居する高齢者が死亡事故に巻き込まれてしまったというケースで苦しんでおられる方が入れば、参考となれば幸いです。
【関連記事】飛び出し事故で家族が亡くなった場合|過失割合や賠償金を解説
高齢者が死亡した際に請求できる賠償金
死亡事故の被害で請求できる損害賠償は慰謝料だけではありません。以下のように、死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬儀関係費用などが挙げられます。これがすべてというわけではありませんが、この記事では以下3つに焦点を当てて解説していきます。
死亡事故の損害賠償 |
|
死亡慰謝料 |
事故の被害者が死亡したことで生じた精神的苦痛に対して支払われる金銭的補償 |
死亡逸失利益 |
被害者が生きていれば将来得られていたはずの収入に対する補償 |
葬儀関係費用 |
祭壇料や埋葬料など、葬儀に関連する費用 |
死亡事故の損害賠償請求において知っておくべきポイント
死亡事故では、被害者に代わって遺族が損害賠償請求を行わなければなりません。トラブルなく円滑に手続きを済ませるためにも、以下のポイントを抑えておきましょう。
過失割合によって賠償金は左右される
過失割合とは「交通事故における当事者双方の責任の割合」のことです。事故状況に似た判例と照らし合わせて判断することになりますが、協議の場合は相手との話し合いによって決めることとなります。被害者が歩行者であっても必ずしもその過失が0%となるわけではなく、歩行者である被害者に一定の過失が認められる場合もあります。
被害者が受け取ることができる賠償金は、双方の過失割合によって左右されます。例えば「被害総額1,000万円、被害者の過失割合20:加害者の過失割合80」という場合であれば、被害者の過失分を控除した800万円を請求することになります。
相手の保険会社から提示された過失割合が必ずしも適正であるとは限りません。過失割合が1割変わるだけでも最終的に受け取れる金額が大きく変動する可能性もありますので、相手から過失割合の提示があった場合、それが適正かどうかは慎重に判断するべきでしょう。もし判断が難しい場合には、弁護士などの力を借りることをおすすめします。
損害賠償請求する権利がある人
交通事故の被害者が死亡している場合、下表にある被害者の法定相続人が請求することになります。
- 被害者の配偶者
- 被害者の子供
- 被害者の直系尊属(親・祖父母)
- 被害者の兄弟姉妹
上記の者であれば請求対応が可能ですので、一応「各相続人がそれぞれの法定相続分に従って請求する」ということも可能ではあります。ただしこの手段では、相手方は一人一人対応しなければならず時間もかかりますので、多くの場合「相続人間で代表者を1名決めて損害賠償請求する」という手法が取られます。
高齢者の死亡慰謝料の相場
交通事故の慰謝料には3種類の算出基準があり、どの基準を適用するかで死亡慰謝料の相場は変わります。弁護士基準で計算することが被害者側には有利と言われていますが、弁護士の介入がない場合、同基準で算定して欲しいと求めても相手保険会社から対応を渋られることもあり得ます。
そのため、弁護士基準で慰謝料算定を望むのであれば、弁護士に依頼しておいた方がスムーズでしょう。
交通事故の慰謝料が決まる3つの基準 |
|
自賠責基準 |
交通事故で負傷した被害者に対して、法令で決められた最低限の補償を行うことを目的とした基準。 |
任意保険基準 |
自動車保険会社が独自に設けている基準。自賠責基準よりも多くの補償が受けられる。 |
弁護士基準 |
裁判所の判例などを参考にした基準。自賠責基準や任意保険基準よりも高い水準となっている。 |
自賠責基準の相場
自賠責基準では、慰謝料請求する遺族の人数により以下の通り金額が異なります。
請求する要項 |
慰謝料額 |
死者本人に対する慰謝料 |
400万円(2020年4月1日以前に発生した事故に関しては350万円) |
死亡者に扶養されていた場合(※) |
200万円 |
慰謝料を請求する遺族が1人の場合 |
550万円 |
慰謝料を請求する遺族が2人の場合 |
650万円 |
慰謝料を請求する遺族が3人の場合 |
750万円 |
※遺族が死亡した被害者本人に扶養されていた場合のみ200万円が加算されます(遺族が1人で扶養されている場合:400万円+200万円+550万円=1,150万円)。
任意保険基準・弁護士基準の相場
任意保険基準・弁護士基準では、家庭内での死亡者の役割によって以下の通り金額が異なります。
高齢者であれば「上記以外」に該当するケースが多いようですが、被害者が家族を扶養していたり、家事を中心的に行ったりしていた場合には、それらを加味して慰謝料の増額が認められるケースもあります。
死亡者の立場 |
任意保険基準(推定) |
弁護士基準 |
一家の支柱 |
1,500万~2,000万円 |
2,800万円 |
配偶者、母親 |
1,500万~2,000万円 |
2,500万円 |
上記以外 |
1,200万~1,500万円 |
2,000万~2,500万円 |
※上記の金額は「死者本人に対する慰謝料」と「遺族に対する慰謝料」を合算した額になります。
高齢者の事故で高額な死亡慰謝料が支払われた事例
実際の事故状況に応じて慰謝料は大幅に異なります。「高齢者の死亡慰謝料の相場」で紹介したものはあくまで相場ですので、なかには相場を上回るケースもあります。ここでは、慰謝料の高額事例を3つ紹介します。
2,700万円支払われたケース
自転車で道路横断中の男性(76歳)が加害者の運転する乗用車に衝突され、両側急性硬膜下血腫・頭蓋骨骨折・脳挫傷などの重傷を負い、事故の翌日に死亡したという事例です。 裁判所は加害者について「被害者の動静に注意を払って十分な距離を確保した上で追い抜くべきだったにもかかわらず、これを怠っていたことから、前方不注視及び自転車の側方通過に際する安全確認不十分の過失が認められる」とした上で、被害者についても「安全確認をせずに横断開始したことから、道路横断時の安全確認不十分の過失が認められる」としています。双方の過失については、被害者が高齢であることなども考慮して「被害者10:加害者90」が相当と認めました。 その結果、加害者に対して慰謝料として2,700万円(被害者本人:2,200万円、被害者の妻:200万円、被害者の子供3名:各100万円)の支払いを命じました(参考判例:東京地裁平成27年5月25日判決、民集第48巻3号649頁)。 |
2,800万円支払われたケース
工事現場で交通整理などの作業を行っていた男性(76歳)が、加害者が運転するバック走行中の中型トラックに衝突され、脳挫傷の重傷を負って事故の翌日に死亡したという事例です。 裁判所は加害者について「周囲に誘導する者がいない状態であることを認識していながら後方確認を怠っており、さらにバック走行時に運転席の後方の窓から確認していれば、被害者の存在を確認できていたことなどを踏まえると過失は重大と言える」とした上で、被害者についても「事故発生の危険性が高い工事現場での作業を行うにあたって、工事関係車両の動向について注意を払う必要があった」としています。双方の過失については「被害者15:加害者85」が相当と認めました。 その結果、加害者に対して慰謝料として2,800万円(被害者本人:2,500万円、被害者の妻:300万円)の支払いを命じました(参考判例:名古屋地裁平成28年7月15日判決、民集第49巻4号893頁)。 |
3,050万円支払われたケース
徒歩で横断歩道を横断中の女性(75歳)が加害者の運転する乗用車に衝突され、事故後間もなく死亡したという事例です。このケースでは、加害者に対して慰謝料として3,050万円(被害者本人:2,500万円、被害者の夫:100万円、被害者の子供2名:各50万円、被害者の孫2名:50万円・300万円)の支払いが命じられました。 その背景として「被害者が事故以前、介護認定を受けた夫の外出時の補助を行っていたこと」や「知的障害の認定を受けた孫の介護を行い、作業所への送り迎えなどを行っていたこと」など、専業主婦として家族の生活全般にわたって稼働していた事情が考慮されています(参考判例:大阪地裁平成22年2月9日判決、民集第43巻1号140頁)。 |
死亡逸失利益の計算方法
死亡逸失利益は一般的には以下の計算式で求められますが、高齢者の場合、既に就労可能年齢(67歳)に達していることが多いです。
そのため、67歳以降も就労する高度の可能性があるような場合や、家事労働者であり67歳以降も家事労働を行っているという場合でなければ、高齢者について就労に係る死亡逸失利益を請求することはできません。このような特別な場合の逸失利益は、平均余命を基準に算定するのが通常です。
死亡逸失利益の計算式 |
『基礎収入額』×『1−生活控除率』×『就労可能年数に対応する中間利息控除』 |
以下、平均余命に基づく算定の参考値です。
死亡事故の被害者 |
死亡逸失利益 |
年収400万円72歳の男性 |
約709万円 (生活費控除率を50%、中間利息控除割合を3.546として計算) |
年収300万円77歳の女性 |
約909万円 (生活費控除率を30%、中間利息控除割合を4.3295として計算) |
※2017年に公表された平均寿命(男性80歳、女性87歳)に基づき算出
葬儀関係費用の上限額
葬儀関係費用については上限額があり、自賠責保険では原則60万円となります。また任意保険基準や弁護士基準の場合も、実費すべてを請求できるわけではありません。以下はあくまで合理的範囲の目安としてですが、参考にしていただければ幸いです。
請求できる葬儀代の限度額 |
|
自賠責基準 |
60万円 |
任意保険基準 |
各保険会社で異なるが、自賠責基準と弁護士基準の間というケースが多い |
弁護士基準 |
150万円 |
死亡事故で損害賠償(慰謝料)を受け取るタイミング
死亡事故では上記のような流れで手続きが進められ、損害賠償が支払われるのは「加害者側の保険会社または加害者本人との示談成立後」になります。また示談交渉については、葬儀後49日が経過してから交渉を開始するのが一般的かもしれません。相手との示談が成立すれば、多くの場合2週間以内に賠償金が一括で支払われるでしょう。
なお注意点として、一度成立した示談については、あとになってから示談内容を変更することは原則できません。相手からの提示額に安易に応じてしまうと、のちのち後悔することにもなりかねませんので、金額が妥当かどうか慎重に判断する必要があります。
死亡事故の対応は弁護士への依頼がおすすめ
被害者の立場であれば、死亡事故の対応は弁護士に依頼することを強くおすすめします。弁護士を雇うメリットは以下の2点です。
損害賠償の増額が見込める
任意保険基準と弁護士基準では、死亡慰謝料の相場に数百万円単位の差があります。また、死亡逸失利益や葬儀関係費用でも差額が生じるケースが多々あるので、死亡事故の賠償金は弁護士の介入によって増額できる可能性が高いでしょう。
また弁護士に依頼する際は「弁護士費用がいくらかかるか」も気を付けるべきですが、死亡事故では任意保険基準と弁護士基準の差額が大きいので、弁護士費用を払っても収支がプラスになるケースがほとんどです。そのため、基本的に費用倒れを心配する必要はほぼないかと思われます。
なお「被害者本人」または「被害者が同居する家族」の任意保険に、弁護士費用特約が付帯している場合には、弁護士費用の全部または一部を保険会社から負担してもらえます。もし任意保険に加入されている場合は、特約が利用できるか確認してみてください。
加害者側への対応を一任できる
葬儀や相続などの手続きをこなしつつ慰謝料請求の手続きまでこなすのは、かなり負担が大きいです。また加害者の関係者とやり取りをすることに、精神的な苦痛を感じてしまうこともあるでしょう。
しかし弁護士を雇えば、加害者や加害者側の保険会社と一切やり取りをする必要はありません。示談交渉などの手続きはすべて弁護士に任せて、あとは賠償金が支払われるのを待つだけです。肉体的にも精神的にも、事故対応の負担を大きく軽減できるかと思われます。
まとめ
被害者が高齢者の場合、通常とは異なる検討を要する場合もあります。
もし、自身の家族である祖父母が交通事故被害に巻き込まれてしまったという場合、「相手との示談交渉を任せたい」「請求できる適切な慰謝料を確認したい」ということであれば、弁護士への相談・依頼を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。事務所によっては無料相談なども可能ですのでおすすめです。
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