無過失責任とは | 交通事故で過失0の被害者も知るべき責任
無過失責任(むかしつせきにん)とは、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負うという民法第709条に抵触し、加害者がその行為について故意・過失が無くても、損害賠償の責任を負うことです。
2015年の4月13日、福井地方裁判所で「居眠り運転によって突っ込まれた運転手の無過失が証明できないとして4,000万円の賠償を負う義務がある」とした判決があります(参考:文献番号 2015WLJPCA04139005)。
この判決の争点は加害者に過失が「ある」か「ない」か、これを証明できるかが鍵になりました。
今回は、ただぶつけられただけの「もらい事故」なのに責任が生じる無過失責任とはどういうものなのか、ご紹介します。
無過失責任の原則
元来は、不法行為によって被害をうけた被害者は加害者の故意・過失を立証しなければならないのが原則でした。
しかし、交通機関の発達により交通事故事案が増加し、被害者救済の必要性が高まったことから、交通事故では当該原則が変容し、過失の立証責任が転換されています。
望まぬ加害者となった場合に知っておくべき立証責任の転化
「詳しい概要」は省き、過失立証が転換される根拠規定についてご紹介します。
民法第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この一文を読む限り、「故意又は過失があった場合」には、加害者は当然損害賠償の責任を追い、被害者に対して賠償をする義務があるということです。
故意の場合に損害賠償責任が生じるのは当然ですが、故意や過失でなければ、賠償責任を負わなくても情状酌量の余地、つまり、責任を負われることはないはずです。
しかし、自動車損害賠償保障法の第3条では交通事故の加害者は原則として賠償責任を負うものとされ、自身が無過失であること等を立証して初めて責任を免れることとされました。
立証責任の転化とは
同条項は以下のように規定されています。
(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
ご覧の通り、民法709条のように【故意又は過失によって】という文言が自動車損害賠償責任にはありません。つまり、これだけを見た場合、自動車を運転していた人はどんな場合でも損害賠償の責任を追うことになります。すなわち、原則として加害者は責任を負うのです。
しかし、この自賠責法をそのまま利用していては、理不尽な交通事故が乱発することになるので、自賠法の第3条には3つの但し書きがあり、この3つを加害者側が立証出来れば、損害賠償の責任を免れることができます。
損害賠償責任から逃れる為の3つの主張
それぞれ以下のような主張をして、認められなくてはいけません。
①自己及び運転者が車の運行に関して注意を怠らなかったこと
自分が運転者の場合、一切の過失が自分には無いことを証明しなければなりません。一旦停止やスピード規定などの小さなことから、運行者として道交法等で定められている注意義務を全て順守していることが求められます。
②被害者又は運転者以外の第3者に故意又は過失があったこと
被害者が歩行者の場合、赤信号横断や横断歩道以外の横断など、交通事故に合う可能性がある行為をしていたことを証明する必要があります。裁判の場合、赤信号横断の被害者側の過失認定は60%~80%認められるのが通例です。
なお、被害者に過失がある場合、加害者の責任が認められても過失相殺が認められます。
③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害が無かったこと
車検を受けて修理を促されたのに、車の修理をしていなかった場合はもちろん、車検を受けていないのもNGです。以上の3要件を満たせば加害者側の責任は否定されますが、なかなか難しいのが現実です。
無過失責任のトラブルは弁護士に相談
福井の交通事故のように、被害者が高額な損害賠償請求ができる場合でも、被害者に過失がないときには契約保険会社が示談代行を行うことができません。
そうなった場合、弁護士に依頼するのがもっとも有効な方法でしょう。もし弁護士費用特約に加入していれば、弁護士費用は300万円までは保障してくれますので、理不尽な過失割合に対応するには一度検討されてみると良いでしょう。
まとめ
このような立証責任の転換は、加害者側で過失のない事を明らかにする、「悪魔の証明」のような難しい案件です。
法律的な知識も多く関わって来る為、お一人で悩まず、専門家の意見を取り入れ、早期解決を図っていただければ幸いです。
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