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交通事故の損害賠償請求は、「和解」によって解決することが比較的多いです。
和解とは、当事者双方が互いに譲歩して紛争の解決を合意することをいいます。
いったん和解交渉が決裂して裁判(訴訟)に発展した場合でも、裁判手続きの中で和解が成立するケースがあります。
これは「訴訟上の和解」と呼ばれるものです。
交通事故の損害賠償請求を和解で解決することには、被害者にとっても多くのメリットがあります。
弁護士のアドバイスを踏まえつつ、和解案の内容が妥当であれば積極的に和解を検討しましょう。
本記事では、交通事故の裁判における和解率や、和解のメリット・種類・手続きの流れなどを解説します。
交通事故の被害に遭い、加害者側に対して損害賠償請求をおこなっている方や、これから損害賠償を請求する準備を進めている方は、本記事を参考にしてください。
裁判所が公表している「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」によると、令和4年(2022年)の終局事件のうち、交通損害賠償事件の総数に占める和解率は65.3%でした。
ほかの種類の事件と比較しても、交通損害賠償事件における和解率は、すべての民事事件・行政事件・家裁人事事件の中で最も高くなっています。
事件の種類 | 和解率 |
---|---|
交通損害賠償 | 65.3% |
労働金銭 | 54.8% |
医療損害賠償 | 53.0% |
労働 ※金銭以外 |
48.0% |
※令和4年(2022年)に終局した民事事件・行政事件・家裁人事事件のうち、和解率が高い事件の種類を上位から4つ抜粋
これに対して、交通損害賠償事件の総数に占める判決率は19.2%であり、和解率の3分の1未満です。
「訴訟は判決で解決するもの」というイメージが強いかもしれませんが、交通事故の損害賠償請求については、訴訟に発展しても和解が成立するケースが多いことが分かります。
和解によって交通事故紛争を解決することには、主に以下のメリットがあります。
被害者と加害者(または保険会社)の間で和解が成立すれば、その時点で交通事故の損害賠償請求に関する争いは終了します。
早期に紛争を解決できるため、被害者としては損害賠償請求にかかる労力を軽減できるメリットがあります。
また、比較的早い段階で損害賠償の支払いを受けられ、生活の立て直しなどに役立てることができます。
交通事故紛争を和解によって解決すれば、損害賠償請求にかかる費用を抑えることができます。
裁判(訴訟)へ発展する前の段階で、交渉を通じて加害者側との和解が成立すれば、裁判になるケースよりも弁護士費用は安く済むことが多いです。
また、裁判所へ訴訟費用を納付する必要もありません。
すでに裁判へ発展している場合でも、訴訟上の和解が成立すれば、その時点で裁判は終了します。
特に弁護士に依頼している場合には、期日を重ねるごとに出廷日当や実費の支払いが発生し得るところ、和解成立によってこれらの費用の支出を抑えられます。
損害賠償を命ずる裁判の判決が確定しても、相手方が任意に損害賠償を履行するとは限りません。
任意に損害賠償が支払われなければ、強制執行を申し立てる必要性が生じ、少なくない手間と費用がかかります。
保険会社が裁判で確定した損害賠償を支払わないことは稀ですが、加害者本人に対する損害賠償請求の場合は、損害賠償が支払われないことが少なくありません。
この点和解は、被害者とともに、加害者(または保険会社)が自ら同意することによって成立します。
加害者側が自発的に約束した条件であれば、判決によって強制的に義務付けられた場合よりも、加害者側が被害者に対して任意に損害賠償を支払う可能性が高いと考えられます。
和解を拒否して判決を求める方針は、勝訴できる可能性が高いのであれば合理的といえます。
しかし判決の内容は、実際に判決が言い渡されるまで分かりません。
勝訴できると思って和解を拒否したのに、実際には敗訴してしまう、または考えていたより損害賠償の金額が少なかったというケースもあります。
こうしたリスクを防ぐためには、判決を待たずに和解に応じることも選択肢の一つです。
和解に応じれば、損害賠償の成否および金額について不確定要素がなくなり、被害者は資金計画を立てやすくなります。
交通事故に関する和解は、大きく以下の3種類に分類されます。
裁判所を通すことなく、被害者側と加害者側が直接示談交渉をおこない、合意を得て和解に至るケースがあります。
示談交渉を通じた和解であれば、裁判を起こす必要がないため、最も早期に紛争を解決できます。
弁護士費用も安く済む傾向にあり、訴訟費用もかかりません。
ただし、被害者側と加害者側の主張がかけ離れている場合には、示談交渉を通じた和解が成立する可能性は低いでしょう。
訴え提起前の和解とは、訴訟を提起する前の段階で、簡易裁判所に和解の申立てをして紛争を解決する手続きです(民事訴訟法275条)。
裁判上の和解の一種ですが、最初から和解による解決を前提とした申立てをおこなう点で、訴え提起後の裁判上の和解とは異なります。
被害者側と加害者側の双方が合意し、その合意を裁判所が相当と認めたときは、訴え提起前の和解が成立します。
この場合、合意内容が和解調書に記載され、和解調書は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
裁判所に対して訴えを提起した後でも、当事者の申出により、または裁判所の提案によって和解期日がおこなわれることがあります。
和解期日において被害者側と加害者側の双方が合意し、その合意を裁判所が相当と認めたときはします。
この場合、合意内容が和解調書に記載され、和解調書は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
訴え提起後の裁判上の和解が成立するまでの流れについては、次の項目で解説します。
交通事故の損害賠償請求訴訟において、裁判上の和解が成立するまでの手続きの流れは、大まかに以下のとおりです(訴え提起後の裁判上の和解について解説します)。
被害者が裁判によって交通事故の損害賠償請求を争うには、裁判所に対して訴状を提出する必要があります(民事訴訟法134)。
その際、被害者の主張する事実を立証し得る証拠書類(書証)も併せて裁判所に提出します。
訴状が受理されると、裁判(訴訟)が裁判所に係属した状態となります。
訴状を受理した裁判所は、訴状その他の提出書類を被告(加害者または保険会社)に対して送達します(民事訴訟法138条1項)。
また、被告に対しては期限を設けて答弁書(=訴状に対して反論する書面)の提出を求めます。
さらに裁判所は、第1回口頭弁論期日を指定して、原告(被害者)と被告に通知します。
裁判所が指定した日程において、裁判所の公開法廷で第1回口頭弁論期日が開催されます。
第1回口頭弁論期日では、すでに提出されている訴状・答弁書・準備書面の陳述および書証の提出を確認した上で、争点整理手続の日程が調整されるのが一般的です。
争点整理手続には「弁論準備手続」と「書面による準備手続」の2種類があり、いずれも裁判における争点および証拠を整理・明確化することを目的としています。
争点整理手続は、非公開でおこなわれます。
争点整理手続において争点と証拠を整理・明確化しつつ、公開法廷で開催される口頭弁論期日において審理がおこなわれます。
争点整理が完結した段階では、交通事故の目撃者などの人証に対する尋問が実施されることもあります。
裁判所は、訴訟がいかなる程度にあるかを問わず、和解を試みることができるとされています(民事訴訟法89条1項)。
和解を試みる場合、裁判所はその旨を当事者双方に対して提案します。
当事者が裁判所の提案を受け入れれば、和解期日へと移行します。
裁判所による和解の試みは、訴訟のごく初期の段階でおこなわれることもあれば、人証に対する尋問が終了し、判決間近となった段階でおこなわれることもあります。
特に、審理が進んだ段階で和解を試みる場合には、裁判所は当事者双方に対して大まかな心証を開示するケースが多いです。
当事者は、裁判所の心証から判決に至った場合の結果を予想し、和解に応じるべきかどうかを判断します。
和解期日は非公開でおこなわれます。
裁判所内にておこなわれる場合もありますが、裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いてオンラインで和解期日の手続きをおこなうことも認められています(民事訴訟法89条2項)。
和解期日では、裁判官が被害者側・加害者側とそれぞれ面談し、心証開示や和解に関する意向の聴取をおこなった上で、和解の可能性を探るという流れが一般的です。
被害者側と加害者側の間で合意が調ったら、和解調書の作成へと進みます。
和解調書には、当事者間で合意した和解案の内容が記載されます。
ただし、具体的な和解条項について当事者の合意が成立していなくても、以下の場合には当事者間に和解が調ったものとみなされます。
これらの場合には、裁判所または受命裁判官もしくは受託裁判官(=裁判所等)が定めた和解条項の内容が和解調書に記載されます。
和解の成立をもって、訴訟手続きは終了となります。
和解調書は確定判決と同一の効力を有します(民事訴訟法267条)。
したがって、和解調書の記載において認められた損害賠償請求権につき、被害者は加害者(または保険会社)の財産に対する強制執行を申し立てることができます(民事執行法22条7号
被害者が強制執行を申し立てると、加害者(または保険会社)の財産につき換価・処分等がおこなわれ、得られた金銭が損害賠償に充当されます。
なお、強制執行を申し立てる際には、その対象となる加害者(または保険会社)の財産を特定しなければなりません。
対象財産を把握・特定するのが難しい場合には、弁護士にご相談ください。
交通事故の損害賠償請求訴訟において、裁判上の和解を検討する際には、以下の各点を念頭に置きつつ適切に対応しましょう。
訴訟の和解期日において、裁判所が当事者に対しておこなう提案の内容には、裁判所の心証が大いに反映されます。
つまり、それまでの審理の結果が、裁判上の和解の内容を大きく左右するということです。
そのため被害者としては、最終的に和解で解決することを視野に入れるとしても、十分な準備を整えて訴訟に臨む必要があります。
具体的には、被害者が受けた損害の額を漏れなく積算すること、過失割合を適切に算定すること、被害者側が主張する事実を十分に立証し得る証拠を確保することなどが重要です。
弁護士のサポートを受けながら、最大限の準備を整えた上で訴訟を提起しましょう。
裁判上の和解に応じるかどうかについては、判決が言い渡された場合に見込まれる結論が分からなければ、適切に判断することができません。
判決における結論を見通すためには、裁判所の心証を予想・分析する必要があります。
裁判所の心証は、争点整理手続における言動や、口頭弁論期日における尋問時の質問などに表れることが多いです。
また、当事者に対して裁判所が明確に心証を伝えるケースもあります。
被害者としては、期日を通じて得られたあらゆる情報を基に、裁判所の心証を予想・分析しなければなりません。
そのためには、客観的な視点や裁判所の姿勢・考え方に対する理解などが必要不可欠ですので、弁護士と相談しながら判断することをおすすめします。
裁判上の和解に応じると、紛争を早期に解決でき、損害賠償の支払いを早い段階で受けられるメリットがあります。
交通事故の被害者にとって、このメリットは非常に大きなものです。
特に第一審の段階では、和解によって控訴の可能性がなくなるため、解決までの期間を数ヵ月から1年程度短縮できます。
その一方で、早期解決を重視するあまりに、得られるはずだった損害賠償が大幅に減額されてしまっては本末転倒です。
判決に至った場合に全面勝訴できそうであれば、裁判上の和解を拒否した方がよいケースが多いでしょう。
反対に、被害者にとって不利な判決が見込まれる場合には、裁判上の和解に応じた方が賢明といえます。
裁判上の和解に応じるかどうかの判断に当たっては、早期解決のメリットや、見込まれる判決内容と和解案の対比などを総合的に検討する必要があります。
弁護士のアドバイスを踏まえつつ、ご自身にとって納得できるベストな選択は何であるかを慎重に検討しましょう。
交通事故の被害者が損害賠償請求をおこなうに当たっては、加害者側との和解に応じるか否かを検討すべき場面が多々発生します。
和解に応じるかどうかについては、早期解決のメリットや、見込まれる判決内容と和解案の対比などを総合的に検討しなければなりません。
そのためには、客観的・法的な視点や損害賠償請求の実務に関するバランス感覚が重要になります。
交通事故事件の経験を豊富に有する弁護士のサポートを受ければ、和解に応じるかどうかについて適切な判断をおこなうことができるでしょう。
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