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他の車を追い越したら…
「追い越された」「割込みされた」など些細な理由から、無茶な運転で相手の進路を妨害したり、後ろからプレッシャーをかけたりしてくる「あおり運転」の被害に遭った人も少なくないでしょう。
当サイト「ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)」で行ったアンケート調査では、回答者数の約78%の人が、「あおり運転に遭った経験がある」と答えました。
(2020/6/26~2020/6/28インターネット上で約143人に対して実施したアンケート調査の回答結果)
あおり運転は、少しの運転ミスで死亡事故につながる可能性の高い、危険行為です。このような事情を鑑み道路交通法が改正され、2020年6月30日からはあおり運転に対し「妨害運転罪」として懲役刑もしくは罰金刑が科せられます。
また、運転により他人を死傷させた場合に適用される「危険運転致死傷罪」の該当行為に、①走行中の車の前方で停止するなどして接近する行為や、②高速道路上で停車するなどして走行中の車を停止・徐行させる行為、が追加されました。
この記事では、あおり運転の実態や妨害運転罪の具体的内容、問題点などを紹介します。
2017年に起きたあおり運転によって6人の死傷者を出した「東名高速夫婦死亡事件」をきっかけに、警察庁は取り締まりを強化しました。
2018年(平成30年)では、車間距離保持義務違反の取り締まり件数が1万件を超え、あおり運転の取り締まり件数が急増していることがわかります。
あおり運転行為に対しては、従前、道路交通法上の車間距離保持義務違反や安全運転義務違反、悪質な場合には刑法上の暴行罪などが適用されていました。なお、2018年、あおり運転に関し、刑法を適用した件数は以下のとおりです。
種別 |
殺人 |
傷害 |
暴行 |
件数 |
1 |
4 |
24 |
しかし、今後はあおり運転が発生した場合、基本的には「妨害運転罪」により罰せられることとなります。
妨害運転罪は、他の車両の交通を妨害する行為(あおり運転)を行った場合、及びそれによって交通の危険性を生じさせた場合に罰則を科す内容となっています。
あおり(妨害)運転に対する「妨害運転罪」の規制内容や罰則、対象となる違反について紹介します。
妨害運転罪では、3年以下の懲役または50万円以下の罰金といった刑事罰のほか、欠格期間を2年とした免許取り消し、違反点数25点の追加といった行政罰が科せられます。
また、あおり運転により、国道や高速道路上で他の車両を停止させるなど、著しい交通の危険を生じさせた場合には、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、さらに欠格期間を3年とした免許取り消し、違反点数35点が追加されます。
なお、前歴や累積点数がある人があおり運転をした場合には、欠格期間が最大5年に、さらに交通の危険を生じさせた場合には、欠格期間が最大10年になります。
妨害運転罪では、以下の10種の運転行為を罰則の対象としています。
各違反行為について、具体的に紹介します。
通行区分(道路交通法第17条)に違反して、対向車線を逆走したりすることがこれに当たります。
危険防止のためにやむを得ない場合を除き、急停止や走行速度を急に落とすような急ブレーキは禁止されています(道路交通法第24条)。いきなり速度を落とせば後続車が追突してしまうリスクが高まるからです。
道路交通法第26条では、直前の車両などが急停車した時でも、追突しない距離を保たなければならないことが定められています。
なお、追突しない距離として、警視庁は以下のような目安を提示しています。
スピードに関係なく、前車がある地点(高速道路では、路面のジョイント、照明灯などを目標に)を通過してから2秒経ってそこに行けば適切な時間を空けて走行していることになります。
車間距離は空ければよいわけではなく、4秒空けると割り込んで来て、かえって危険です。そこで2秒が適切と言うわけです。(引用:高速道路を利用する皆様へ|警視庁)
そのため、妨害を目的に密着するように走行された場合、妨害運転罪に該当する可能性があります。
進路変更することにより、その進路の後方を走行している車両の速度や進路を急に変更させるおそれがある場合の進路変更は禁止されています(道路交通法第26条の2第2項)。
つまり、他の車両の進路前へ急に割込み、走行の邪魔をしてはいけない、ということです。前の車両が執拗に急な進路変更によって、走行を妨害してくる場合、妨害運転罪に該当する可能性が高いでしょう。
追越しの方法に関しては、道路交通法第28条で規定されています。追越しの方法に違反して、左車線から前の車を追い越すような場合には、追越し違反に当たります。
視界が悪い時の運転にライトは必須ですが、道路状況などによって調節しないと、前方もしくは対向車両の運転手の視界を悪くし、事故を起こすきっかけになりかねません。
交通の妨げになるにも関わらずハイビームで走行し続ける行為も、道路交通法第52条2項に違反する行為です。
警音器は、左右の見通しのきかない交差点や曲がり角の走行時、道路標識によって指定されている道路の通過時など、鳴らすべき場所や状況が規定されており(道路交通法第54条)、それ以外の場所では原則として鳴らしてはいけません。
そのため、不必要に警音器を鳴らす行為は違法行為になります。
車両などの運転者は、ハンドル、ブレーキ等を確実に操作し、道路・交通状況等に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転をする義務があります(道路交通法第70条)。
無理な幅寄せ行為などは、この義務に違反しているといえるでしょう。
車両を運転する際は、スピードを出さなければよいわけではありません。スピードが極端に遅いとかえって事故を招く可能性があります。
特に高速道路では、追突のリスクが高くなり大変危険です。そのため道路交通法では、最低速度に達しない速度で走行してはならないことを定めています(道路交通法第75条の4)
なお、最低速度については、道路標識によって定められているケースもありますが、特に定めのない道路では毎時50キロメートルと定められています(道路交通法施行令第27条の3)。
高速自動車国道での駐車・停車は原則禁止されており、やむを得ない事情がある場合は、適切な方法での停車が求められます(道路交通法第75条の8第1項)。
走行の妨害を目的に、被害者の車両を強引に停車させる行為は、これに違反します。
危険な運転により人を負傷させたり、死亡させたりした場合、自動車運転処罰法(動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)もしくは刑法により、刑事責任が追及されてきましたが、今まであおり運転について明確な規定はありませんでした。
しかし、自動車運転処罰法の改正が行われ、「危険運転致死傷罪」の対象となる行為にあおり運転(走行を妨害する行為)の追加が決定されました。
第2条 次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
・・・
四 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
(引用:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律 第2条第4号)
2020年7月2日から施行され、危険なあおり運転によって他人を負傷させた場合15年以下の懲役に、死亡させた場合は1年以上の有期懲役が科せられます。
また、高速道路や自動車専用道路において、通行を妨害する目的で停止・接近し走行中の自動車を停止もしくは徐行させ、負傷・死亡させた場合も、「危険運転致死傷罪」の対象に追加されました。
バイクや自転車が無茶な走行により、あおられるケースもあります。
愛知県春日井市で原付バイクが乗用車に対し、突如、あおり運転を行い、走行中にもかかわらず、一時、車のドアを開けられる事態に。(引用:ドライブレコーダーが捉えた“あおり運転” 原付バイクが走行する車の「ドアを開ける」 あわや大事故に|CHUKYO TV NEWS)
妨害運転罪で取り締まりができるのでしょうか?
バイクや自転車によるあおり運転も、「あおり運転に該当する10種の違反」で紹介した行為を妨害目的で行った場合、妨害運転罪に該当します。
|
自転車やバイクから車への妨害運転は、一歩間違えれば死亡事故につながる可能性もあります。
また、客観的に見ても危険な運転をしている場合(自転車が高速道路を走行・バイクが横すれすれを追い抜く など)、妨害されていなくても事故が起きる前に警察へ通報しましょう。
自動車の運転者がバイクや自転車であおられ1番怖いのは、相手を轢いてしまうことではないかと思います。
このような、轢かれた側のあおり運転が原因で運転を誤り、相手を轢いてしまった場合、いかなる責任が問われるかについてですが、刑事責任との関係でいえば、運転者の走行状況、あおり運転の状況等に鑑みて運転者に過失があったか否かが検討されることになると思われます(過失があれば、過失運転致傷罪(自動車運転処罰法5条)等の責任に問われる可能性があるでしょう)。
また、民事責任については、過失相殺により調整されることになると思われます。
妨害運転罪ができたことで必ずしも安心できるわけではありません。今後起こりうるトラブルやその対処法について紹介します。
妨害運転罪が創設されることに賛成の声がある一方で、冤罪などのトラブルも増えるのではないかと懸念する声もあります。
当サイト「ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)」で行ったアンケート調査では、「あおり運転に対する罰則の創設をどのように思いますか?」といった質問で、約66%の人が「安心する・よかったと思う」との回答がある一方で、約17%の人が「冤罪などの不安がある・あまり賛成できない」と答えています。
(2020/6/26~2020/6/28インターネット上で約143人に対して実施したアンケート調査の回答結果)
妨害運転罪の成否が問題となる場合、「妨害する目的」があったか否かが争点になると思われます。
例えば、単なる不注意で進路変更禁止に違反する行為をしてしまった場合でも、「妨害運転罪」の嫌疑がかけられてしまうかもしれません。
また、罰則の創設を受けて「今のは妨害運転罪だ」と言いがかりをつけられたり、「警察に訴えない代わりにここで示談しよう」などと脅されたりするリスクもあるかもしれません。
あおり運転をされた場合は、絶対に外に出たり窓を開けたりせず、人通りのある場所(コンビニの駐車場など)へ停車した上ですぐに警察を呼びましょう。
話し合おうとして不用意に外に出たり、窓を開けたりしてしまうと、暴力を振るわれる危険があります。警察が来るまでじっと耐えましょう。
また、冤罪により警察を呼ばれてしまった場合は、任意同行に素直に応じた上で、一貫して「あおっていた」という意思を否定しましょう。「任意同行=逮捕」とは限りません。応じないことでかえって逃走を疑われ、逮捕につながる可能性があります。
警察へ同行し事情を説明した上で、必要であれば、刑事事件が得意な弁護士へ相談することをおすすめします。
どのような立場でも不利にならないためには、事実を証明できる証拠が重要です。自転車・バイク・自動車などどのような車両であれドライブレコーダーのようなカメラ設置の検討をおすすめします。
あおり運転をされた場合の対処法と解決までの流れが基本的に以下の通りです。
道を譲るなどして解決できればそれに越したことはありませんが、何をしても執拗に妨害行為をしてくる場合、警察へ通報し解決します。
具体的な流れについて紹介します。
まずあおられた場合でも、冷静に安全運転を続けることが必要です。
当サイト「ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)」で行った、「あおり運転に対しどのように解決したか」のアンケート調査では、多くの人が気にしない、無視することで解決を図っているようです。
(2020/6/26~2020/6/28インターネット上で約143人に対して実施したアンケート調査の回答結果)
その他の意見では、「イライラしたものの深呼吸をして落ち着くようにした」「法定速度ぴったりで走行した」「警察へ通報した」などの意見もありました。
冷静な対応により、大ごとになる前での解決も期待できます。なお、急ブレーキによる反撃は、事故を誘発させたり、急ブレーキ禁止違反に該当する可能性があるため、しないようにしましょう。
冷静に対応しても、執拗にあおってきたり、さらに危険な運転をしてきたりする場合、できるだけ早い段階で警察へ通報しましょう。
同乗者がいる場合は同乗者から通報してもらい、一人で運転する場合はコンビニなど人目のつく場所へ停車してから通報します。
通報する際は、あおり運転をされた証拠と併せて、相手の車両のナンバーも把握しておきましょう。警察到着までに逃げられた場合でも犯人の身元を調べることが可能です。
警察がきた後は、あおり運転行為を行った者に対しては、逮捕もしくは警察署での任意の事情聴取になるでしょう。その上で、さらに捜査が行われ起訴・不起訴の判断がされることになります。
また、あおり運転を受けた者は、場合によっては相手に対し慰謝料を請求できるケースがあるかもしれません。相手への刑事処分を求めることと、慰謝料を請求することは全く別の手続きのため、両者の点から対応を検討しましょう。
なお、慰謝料請求等の民事事件に関しては、警察では対応しませんので、一度弁護士へ相談してみましょう。
なお、警察が到着した時点で、相手が深く反省しており、あなたも許そうと思うのであれば、話し合いで終わらせることも可能です。
あおり運転に該当するのは、10種類の違反行為です。
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どれも、一歩間違えると死亡事故に発展する大変危険な行為のため、できるだけ早い段階で警察へ通報し、やめさせることが重要です。また、自転車やバイクがこのような違反行為をした場合にも、妨害運転罪に該当する可能性があります。
あおり運転は、「追い越された」など運転していれば当たり前のような理由から発生するため、どれだけ安全運転に努めていても回避するのが難しいトラブルです。
どのような状況であれ、不利にならないようにするには事実を証明する証拠が重要です。ドライブレコーダーなどの設置がまだの人は、できるだけ早い段階で準備しておきましょう。
また、あおり運転により相手方と示談などでトラブルになった場合は、交通事故問題解決が得意な弁護士へ相談してみましょう。
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