交通事故や自転車事故など、事故はいつ起きてしまうか分からないものです。弁護士費用を用意できず泣き寝入りとなってしまうケースも少なくありません。
ベンナビ弁護士保険は、弁護士依頼で発生する着手金を補償する保険です。
交通事故だけでなく、自転車事故、労働問題、離婚、相続トラブルなど幅広い法的トラブルで利用することができます。
弁護士保険で法律トラブルに備える
業務中または通勤中に発生した交通事故については、労災保険と自賠責保険の両方によって補償の対象となることがあります。
この場合、労災保険給付と自賠責保険の保険金のうち、どちらを先に請求するのがよいのでしょうか?
本記事では、労災に該当する交通事故について、労災保険と自賠責保険の優先順位や違いなどを解説します。
業務の一環としての、または通勤のための運転中に交通事故に遭ってしまった方は、本記事を参考にしてください。
運送業ドライバー(トラック・タクシー)などの運転中に交通事故に遭ってけがをした場合は、「業務災害」として労災保険給付を受給できます。
また、通勤中に交通事故に遭ってけがをした場合は、「通勤災害」として労災保険給付を受給可能です。
また、交通事故によるけがについては、加害者側が加入している自動車保険からも補償を受けることができます。
特に自賠責保険は、運行の用に供するすべての車について加入が義務付けられているため(自動車損害賠償保障法5条)、ほとんどの交通事故において補償を受けることが可能です。
労災保険と自賠責保険の両方について補償の対象となる場合、交通事故の当事者は労災保険給付および自賠責保険の保険金をいずれも請求できます。
労災保険および自賠責保険の両方が適用される交通事故については、どちらを先に請求するかを選択することになります。
労災保険給付を先に請求することは「労災先行」、自賠責保険の保険金を先に請求することは「自賠先行」と呼ばれています。
労災先行と自賠先行のどちらを選択するかは、被災労働者(交通事故当事者)の判断に委ねられています。
行政機関における事務の取り扱い上は自賠先行が原則とされていますが(昭和41年12月16日基発第1305号)、当事者に対して自賠先行を強制することはできません。
交通事故の当事者は、状況に応じて労災先行と自賠先行のいずれかを自由に選択することができます。
労災保険給付と自賠責保険の保険金は、両方を請求することもできます。
ただし、損害賠償に対応する労災保険給付については、自賠責保険の保険金が支払われた場合は支給調整によって控除されるため、二重取りはできません。
労災先行の場合は、支給調整の対象となる労災保険給付の既受給額につき、自賠責保険の保険金が控除されます。
自賠先行の場合は、支給調整の対象となる損害額に応じて、労災保険給付の全部または一部が控除されます。
下表の労災保険給付と自賠責保険による補償は、互いに支給調整の対象となります。
支給調整の対象となる労災保険給付 | 自賠責保険による補償 |
---|---|
療養(補償)給付 | 療養費(治療費など) |
休業(補償)給付 傷病(補償)年金 障害(補償)給付 遺族(補償)給付 |
逸失利益 |
葬祭料(葬祭給付) | 葬祭費用 |
労災保険または自賠責保険のいずれかのみによって支給される給付・補償については、支給調整の対象にならないので、被災労働者(交通事故の当事者)は控除されずに受給できます。
具体的には、以下の給付・補償は支給調整の対象になりません。
交通事故の相手方との示談が成立し、その際に示談額以外の損害賠償請求権を放棄した場合には、原則として示談成立以後の労災保険給付がおこなわれなくなります。
労災保険給付を受給する前に、その額よりも低額で示談に応じると、本来受給できるはずだった労災保険給付を受給できず損をすることがあるので注意が必要です。
労災保険給付と自賠責保険の保険金は、基本的にはどちらを先に請求しても構いません。
請求の順序について強制力のあるルールはありませんし、最終的には両方請求した方がよいので、準備ができた方から順次請求すればよいでしょう。
ただし状況によっては、労災保険給付と自賠責保険の保険金のうち、いずれかを先に請求した方がよいケースもあります。
以下のケースでは、労災保険給付を先に請求した方がよいでしょう(=労災先行)。
自賠責保険の保険金は、交通事故に関する受給者の過失が7割以上である場合は、以下の割合によって減額されます。
過失割合 |
後遺障害・死亡に係る保険金の減額割合 |
傷害に係る保険金の減額割合 |
---|---|---|
7割以上8割未満 |
2割減額 |
2割減額 |
8割以上9割未満 |
3割減額 |
2割減額 |
9割以上10割未満 |
5割減額 |
2割減額 |
10割 |
不支給(10割減額) |
不支給(10割減額) |
治療費についても減額の対象となるので、交通事故に関する自分の過失が7割以上の場合は、治療費全額が補償される労災保険給付を先に請求した方がよいと考えられます。
自賠責保険はすべての運行供用車両について加入が義務付けられていますが、違法に無保険のまま車を走らせている運転者もごく稀に存在します。
交通事故の相手方が自賠責保険に加入していない場合は、自賠責保険の保険金を請求できないので、労災保険給付を請求しましょう。
なお、相手方が無保険であったために自賠責保険の保険金を請求できないときは、政府保障事業による補償を受けることができます。
自賠責保険の保険金には限度額が設けられており、限度額を超える損害は補償されません。
たとえば、傷害による損害については、1人につき120万円が限度額とされています。
治療にかかった費用が120万円に達すると、それを超える部分は自己負担となってしまいます。
これに対して、労災保険給付のうち、治療費をカバーする療養(補償)給付には限度額がありません。
けがの治療が長引いたとしても、症状固定(治癒)に至るまでの治療費は全額補償を受けられます。
交通事故によるけがが重症であり、長期的な治療が必要になりそうなときは、労災保険給付を先に請求するのがよいでしょう。
自賠責保険の保険金請求権は、被害者が損害および加害車両の運行供用者を知った時から3年で時効により消滅します(労働者災害補償保険法19条)。
これに対して、労災保険給付のうち、療養(補償)給付や休業(補償)給付などは時効期間が2年とされています。
療養(補償)給付は治療費を補償するもの、休業(補償)給付はけがの影響で仕事を休んだ場合の減収を補償するものです。
療養(補償)給付や休業(補償)給付などについては、自賠責保険の保険金請求権よりも先に時効が完成します。
これらの給付について時効完成が迫っている場合は、速やかに労働基準監督署へ請求をおこないましょう。
以下のケースでは、自賠責保険の保険金を先に請求した方がよいでしょう(自賠先行)。
自賠責保険には、労災保険にはない「仮渡金」という制度が存在します。
詳しくは後述しますが、交通事故の被害者が死亡した場合は290万円、けがをした場合はその程度に応じて40万円・20万円・5万円の仮渡金を速やかに受給できます。
仮渡金を受給したいときは、自賠責保険の請求を先におこなうのがよいでしょう。
労災保険給付では、交通事故による精神的損害に対応する慰謝料は一切補償されません。
これに対して、自賠責保険では慰謝料も補償の対象とされています。
慰謝料について早く補償を受けたいときは、自賠責保険の請求を先におこないましょう。
前述のとおり、自賠責保険の保険金請求権の時効期間は、被害者が損害および加害車両の運行供用者を知った時から3年です(労働者災害補償保険法19条)。
これに対して労災保険給付については、後遺障害および死亡に関する請求権の時効期間は5年とされています。
したがって加害者が不明である場合などを除き、後遺障害・死亡に関する保険金請求権の時効期間は、労災保険よりも自賠責保険の方が早く到来します。
3年間の時効期間が経過しそうなときは、自賠責保険の請求を速やかにおこないましょう。
交通事故によるけがなどの補償に関して、労災保険と自賠責保険の間には、主に以下の違いがあります。
労災保険給付と自賠責保険の保険金は、受給資格が異なります。
いずれか一方の受給資格を満たさない場合でも、もう一方の受給資格を満たすことがあるので、両方の要件を検討しましょう。
労災保険給付は、「業務災害」または「通勤災害」のいずれかに該当する場合に受給できます。
交通事故が業務災害または通勤災害に該当するのは、それぞれ以下の要件をすべて満たす場合です。
交通事故が業務災害に該当するための要件 |
---|
(a)業務遂行性 労働者が使用者の支配下にある状態において交通事故が発生したこと
(b)業務起因性 会社の業務と、交通事故によって生じた労働者のけがの間に相当因果関係があること |
交通事故が通勤災害に該当するための要件 |
---|
(a)以下のいずれかの移動中に交通事故が発生したこと ・住居と就業場所の間の往復 ・就業場所から他の就業場所への移動 ・単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動
(b)交通事故が発生した際の移動が、以下の日におこなわれたこと ・住居と就業場所の間の往復 →就業(予定)日の当日 ・就業場所から他の就業場所への移動 →就業(予定)日の当日 ・単身赴任先住居と帰省先住居の間の移動 →就業(予定日)の前日・当日・翌日
(c)交通事故が発生した際の移動が、合理的な経路・方法によるものであること
(d)交通事故が発生した際の移動が、業務の性質を有するものでないこと ※移動が業務としての性質を有する場合は、業務災害として労災保険給付を受けられることがあります。 |
自賠責保険の保険金は、以下の要件をすべて満たす場合に受給できます。
労災保険と自賠責保険では、交通事故に関する給付の内容および金額の算定基準が異なります。
主な違いとしては、以下の各点が挙げられます。
交通事故のけがに関する療養費については、労災保険よりも自賠責保険の方が幅広く補償されます。
労災保険給付では補償対象外となった療養費についても、自賠責保険に請求すれば保険金が支払われる可能性があります。
交通事故のけがに起因する休業損害については、自賠責保険と労災保険で補償割合が異なります。
自賠責保険では、休業損害は限度額に至るまで100%補償されます。
これに対して労災保険では、休業損害は80%(内訳:逸失利益60%、特別支給金20%)までしか補償されません。
また、休業4日目以降の休業損害のみが労災保険給付の対象となります。
後遺症に対する補償については、労災保険と自賠責保険で算定基準が異なります。
労災保険による障害(補償)給付は、労働基準監督署が認定する障害等級に応じて、給付基礎日額(=原則として労働基準法上の平均賃金)の一定日数分の年金または一時金が支給されるものです。
これに対して自賠責保険では、損害保険料率算出機構が認定する後遺障害等級に応じた労働能力喪失率を適用し、計算式を用いて逸失利益の額を算出します。
また、次の項目で述べるように、自賠責保険では後遺障害慰謝料も補償されます。
労災保険では、傷害・後遺障害・死亡に関する精神的損害(=慰謝料)は一切補償されません。
これに対して自賠責保険では、傷害・後遺障害・死亡のそれぞれについて慰謝料が支払われます。
自賠責保険による補償には、損害の分類(傷害・後遺障害・死亡)に応じて下表の限度額が設けられています。
損害の分類 |
限度額 |
含まれる損害項目 |
---|---|---|
傷害による損害 |
1人につき120万円 |
治療費 看護料 諸雑費 通院交通費 義肢等の費用 診断書等の費用 文書料 休業損害 入通院慰謝料 |
後遺障害による損害 |
後遺障害等級に応じて、下表のとおり |
逸失利益 後遺障害慰謝料 |
死亡による損害 |
1人につき3,000万円 |
葬儀費 逸失利益 死亡慰謝料(本人、遺族) |
後遺障害等級 |
自賠責保険の限度額 |
---|---|
1級 |
3,000万円 ※要介護1級の場合は4,000万円 |
2級 |
2,590万円 ※要介護2級の場合は3,000万円 |
3級 |
2,219万円 |
4級 |
1,889万円 |
5級 |
1,574万円 |
6級 |
1,296万円 |
7級 |
1,051万円 |
8級 |
819万円 |
9級 |
616万円 |
10級 |
461万円 |
11級 |
331万円 |
12級 |
224万円 |
13級 |
139万円 |
14級 |
75万円 |
これに対して労災保険給付には、自賠責保険のような限度額は設けられていません。
治療費や休業損害については、治癒(症状固定)に至るまで上限なく補償されます。
後遺障害や死亡に関する給付は、労災保険特有の算定基準に基づいておこなわれます。
労災保険給付のうち、損害賠償に対応するものは自賠責保険との間で支給調整がおこなわれます。
その一方で労災保険給付には、損害賠償に対応するもの以外に、下表の「特別支給金」が含まれています。
特別支給金は支給調整の対象外であるため、自賠責保険と併用する場合でも満額受給可能です。
労災保険給付の種類 |
特別支給金の種類 |
特別支給金の内容 |
---|---|---|
休業(補償)給付 |
休業特別支給金 |
休業4日目以降、給付基礎日額の20%相当額 |
傷病(補償)年金 |
傷病特別支給金 |
傷病等級に応じて、以下の額の一時金 第1級:114万円 第2級:107万円 第3級:100万円 |
傷病特別年金 |
傷病等級に応じて、以下の額の年金 第1級:算定基礎日額の313日分 第2級:算定基礎日額の277日分 第3級:算定基礎日額の245日分 |
|
障害(補償)給付 |
障害特別支給金 |
障害等級に応じて、342万円(第1級)~8万円(第14級)の一時金 |
障害特別年金 |
障害等級に応じて、算定基礎日額の313日分(第1級)~131日分(第7級)の年金 ※障害等級第1級~第7級の場合 |
|
障害特別一時金 |
障害等級に応じて、算定基礎日額の503日分(第8級)~56日分(第14級)の一時金 ※障害等級第8級~第14級の場合 |
|
遺族(補償)給付 |
遺族特別支給金 |
300万円(一時金) |
遺族特別年金 |
遺族の人数などに応じて、算定基礎日額の153日分~245日分の年金 ※死亡した被災労働者と生計を同じくする、一定の要件を満たす遺族のみ受給可能 |
|
遺族特別一時金 |
算定基礎日額の1,000日分の一時金 ※遺族(補償)年金を受けることができる遺族がいない場合などに限って受給可能 |
自賠責保険には「仮渡金」の制度が設けられています。
交通事故によって死亡し、または傷害を負った被害者(または遺族)は、請求すれば1週間程度で仮渡金を受給できます。
仮渡金の金額は、死亡または傷害の程度に応じて下表のとおりです。
事由 |
仮渡金の額 |
---|---|
①死亡 |
290万円 |
②以下のいずれかの傷害 ・脊髄の損傷を伴う脊柱の骨折 ・合併症を有する上腕または前腕の骨折 ・大腿または下腿の骨折 ・腹膜炎を併発した内臓の破裂 ・14日以上の入院を要する傷害で、治療期間が30日以上のもの |
40万円 |
③以下のいずれかの傷害(②に当たるものを除く) ・脊柱の骨折 ・上腕または前腕の骨折 ・内臓の破裂 ・入院を要する傷害で、治療期間が30日以上のもの |
20万円 |
④11日以上医師の治療を要する傷害(②または③に当たるものを除く) |
5万円 |
労災保険と自賠責保険は、いずれも交通事故による損害全額を補償するものではありません。
大半のケースでは、労災保険および自賠責保険によっては補償されない損害が生じます。
交通事故による損害のうち、労災保険・自賠責保険によって補償されないものについては、以下の方法によって損害賠償を請求しましょう。
いずれのケースでも、損害賠償の金額等に関する示談交渉や、裁判所における訴訟について対応する必要があります。
弁護士に依頼してサポートを受けながら、適正額の損害賠償の獲得を目指しましょう。
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弁護士に依頼することによる主なメリットは、以下のとおりです。
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また、過去の裁判例に基づく「弁護士基準(裁判所基準)」により、被害者の客観的な損害額を正しく計算してもらえます。
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加害者側の保険会社は、支払う保険金額を減らすために、以下のような対応をしてくることがあります。
これらの対応は、被害者が受けるべき補償を不当に減額するものです。
弁護士に依頼すれば、保険会社の主張を鵜呑みにすることなく適切に反論し、適正額の損害賠償を求めることができます。
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