交通事故の入通院慰謝料はいくらもらえる?相場や計算方法を解説
交通事故で負傷して病院での治療が必要となった場合、加害者に対して 慰謝料を請求できます。慰謝料は精神的苦痛に対する賠償金であるため本来算定は難しいですが、入通院慰謝料は入通院の期間や日数等によってある程度目安を付けることは可能です。
また、入通院慰謝料は、どの計算基準を用いるかによっても変動します。こちらの対応次第で受け取れる金額が変わる可能性があるので、示談交渉の際のポイントを押さえておきましょう。
入通院慰謝料の計算方法や計算例、入通院慰謝料の請求で損をしないためのポイントなどを解説します。
入通院慰謝料の計算基準
入通院慰謝料を計算する際の計算基準として、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3種類があります。どの基準を用いるかによって、金額が変わってきます。
①自賠責基準
自賠責基準は、被害者に対して法令で決められた最低限の補償を行うことを目的とした基準です。自賠責保険で用いられる最低限の補償であり、3つの支払基準のなかではもっとも低額になります。
➁任意保険基準
任意保険基準は、加害者側の任意保険会社が内部で設けている基準です。各社が独自に設定しており基準額も非公開となっていますが、自賠責基準よりも若干高額で、弁護士基準よりも低額となるのが一般的です。
③弁護士基準
弁護士基準は、別名「裁判基準」や「赤本基準」などとも呼ばれています。過去の裁判例を参考に、「裁判所で争った場合に判決で予想される金額」を目安として示した基準です。基本的に、一番高額になる計算基準です。
弁護士を通じて相手保険会社と交渉する場合は、弁護士基準で慰謝料を計算して請求します。
【通院期間別】入通院慰謝料の相場
一例として、1〜6ヵ月間通院した場合、それぞれの入通院慰謝料の相場としては以下の通りです。なお、1ヵ月間ごとの通院日数は10日と仮定して計算しています。
通院期間 |
自賠責基準(※1) |
任意保険基準(推定) |
弁護士基準(※2) |
1ヶ月間 |
8万6,000円 (8万4,000円) |
12万6,000円 |
28万円 (19万円) |
2ヶ月間 |
17万2,000円 (16万8,000円) |
25万2,000円 |
52万円 (36万円) |
3ヶ月間 |
25万8,000円 (25万2,000円) |
37万8,000円 |
73万円 (53万円) |
4ヶ月間 |
34万4,000円 (33万6,000円) |
47万8,000円 |
90万円 (67 万円) |
5ヶ月間 |
43万円 (42万円) |
56万8,000円 |
105万円 (79万円) |
6ヶ月間 |
51万6,000円 (50万4,000円) |
64万2,000円 |
116万円 (89万円) |
※1:()内は2020年3月31日以前に起きた事故の慰謝料です。
※2:()内はむち打ち症等の他覚的所見がない負傷の慰謝料です。
どの計算基準においても、入通院慰謝料を決定する要素となるのは、「治療に要した期間」と「実際の通院日数・入院日数」です。ここでは、各基準の入通院慰謝料の計算方法と、金額の目安を解説します。
適用される算定基準が異なることで大きな差額が生じるのが分かります。
【自賠責基準】での入通院慰謝料の計算式
自賠責基準では、入通院による慰謝料を日額4300円として、以下の式で計算します。
入通院慰謝料の計算式 |
|
※①・➁のうち少ない方の金額が採用されます。
※2020年3月31日以前に発生した事故では、1日あたりの金額を4200円で計算します。
1ヵ月(30日)の治療期間中に10日間通院していたケース
このようなケースでは、以下のように計算します。
①4300円×30日=12万9000円
②4300円×10日×2=8万6000円
自賠責基準では、①・②のうち低い方の金額が採用されるため、この場合の入通院慰謝料は②の8万6000円です。
【任意保険基準】での入通院慰謝料の目安
任意保険基準は、保険会社が独自の基準によって設けており、明確な賠償額は公表されていません。保険会社によって具体的な算出方法が異なるので、下記で示しているのはあくまで目安です。
<任意保険基準の入通院慰謝料(単位:万円)>
【弁護士基準】での入通院慰謝料の目安
弁護士基準の入通院慰謝料は、『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(通称:赤い本)』に掲載されている表を参考に算出します。
赤い本に掲載されている表には『別表Ⅰ』と『別表Ⅱ』があり、別表Ⅰは骨折などの重傷を負った場合、別表Ⅱにはむちうち・打撲・捻挫のような他覚症状(他人から見て負傷の有無が分かる症状)がない場合の目安が掲載されています。
<別表Ⅰ:通常の弁護士基準による入通院慰謝料の表(単位:万円)>
<別表Ⅱ:むちうち症で他覚症状がない場合に適用される入通院慰謝料の表(単位:万円)>
入通院慰謝料の請求にあたって注意すべきポイント
相手方に慰謝料請求する際は、以下のポイントに注意しましょう。
怪我の治療を終えるまでは慰謝料額を決定しない
まだ治療が終わっていない段階でも、相手保険会社が「この金額の慰謝料を支払います」と提案してくることがあります。スムーズに損害賠償金を受け取れると思って快諾しそうになるかもしれませんが、怪我の治療が終わっていない段階で提示内容に応じた場合、結果的に損を被る可能性が高いでしょう。
慰謝料の金額は、治療日数や入通院日数などをもとに決まります。実際のところ、事故後に治療を進めていくなかで、想定していたよりも治療が長引いてしまうことは珍しくありません。そのような場合、相手保険会社が提案してきた慰謝料が適正額でなくなることも多いため、治療終了まで交渉には応じないようにしましょう。
症状固定後に通院しても慰謝料は増えない
症状固定とは、治療を続けても症状がこれ以上は改善しないという状態のことです。医師から症状固定の診断を受けた場合、それ以降に通院する必要性はないものとして評価されるため、症状固定後に通院しても慰謝料増額は望めません。
注意点として、なかには相手方保険会社から「そろそろ症状固定にしましょう」などと打診されることもあるかもしれませんが、あくまでも症状固定を判断するのは医師ですので応じる必要はありません。担当主治医に症状を説明して、今後の治療の見通しや効果などについて相談したうえで、慎重に判断することです
通院頻度が極端に少ないと通院日数をもとに算出されることがある(弁護士基準の場合)
弁護士基準で慰謝料を算定する場合、「通院頻度が極端に少ないと治療期間をそのまま適用しないことがある」という点に注意しなくてはなりません。
たとえば、むちうちの治療などで通院頻度が低い場合は、実際の治療期間ではなく実通院日数の3倍程度の期間を基準として慰謝料を計算することがあります。つまり、通院期間が3ヵ月間で総通院日数が10日というケースであれば、10日を3倍して、30日(1ヵ月)を基準に慰謝料を算定することもあるということです。
もっとも、骨折して骨が癒合するまでの治療のように、そもそも高頻度の通院が必要ない場合であれば、このような処理はしません。そのため、通院頻度が少ないことに正当な理由がある場合は、特に心配する必要はないでしょう。
入通院慰謝料以外で請求できる費用
交通事故の際、入通院慰謝料以外にも請求できる費用がいくつか存在します。その主な費目がこちらです。
・休業損害
・治療費
・通院にかかる交通費
・付添費
それでは、1つずつ見ていきましょう。
休業損害
交通事故によるケガで休業を余儀なくされ、収入が減った場合は休業損害を請求することができます。休業損害は、サラリーマンなどの会社員はもちろんのこと、アルバイトやパート、さらには専業主婦でも請求することが可能です。休業損害の請求金額は、基本的に「基礎収入(日額)×休業日数」になりますが、会社員、自営業、専業主婦などの状況によって計算方法が異なるので注意しましょう。
治療費
交通事故でケガをした際の治療費も相手方に負担してもらうことが可能で、主な流れは次の2つになります。
・被害者が立て替え、後日相手方の保険会社に治療費を請求する
・相手方保険会社が直接病院に治療費を支払う(任意一括対応※)
・労災が認められ、労災保険から支払われる
状況によって異なりますが、任意一括対応で行われるのが一般的です。
※任意一括対応とは、加害者側の任意保険会社が損害賠償金や治療費の支払い窓口になるサービスのことをいいます。
通院にかかる交通費
通院にかかった交通費も請求可能です。具体的には、バスや電車などの運賃、車の場合はガソリン代や高速道路通行料、駐車場代などが請求対象となります。タクシーや新幹線の場合は、状況によって認められないこともあるので注意が必要です。どの費用が認められるかはそのときの状況にもよるため、請求できるかどうか不安な場合は一度相談するようにしましょう。
付添費
交通事故によるケガの状態や被害者の年齢によっては、通院時の付き添いが必要になることもあるでしょう。そのような場合に請求できるのが「付添費」になります。付添費にもいくつかの種類があり、主な費目は次のとおりです。
・入院付添費
・通院付添費
・自宅付添費
・通学付添費
付添費はそれぞれの種類によって請求できる金額が異なるので、注意が必要です。また、近親者が都合により付き添うことができない場合は、職業付添人が認められるケースもあります。しかし、近親者と職業付添人では請求できる金額が異なる場合があるので、確認するようにしましょう。
物損事故での慰謝料請求はできない
人が死傷した交通事故を「人身事故」と呼ぶのに対し、人は死傷せず物のみが損傷した事故を「物損事故」と呼びます。人身事故の場合は慰謝料を請求することが可能ですが、物損事故の場合は原則として慰謝料を請求することはできません。その理由として「精神的苦痛」の考え方がポイントになります。
そもそも慰謝料とは、交通事故における精神的苦痛に対する補償として請求できるものです。物損事故の場合は、財産的な損害が賠償されれば、精神的苦痛も慰謝されると考えられているため、慰謝料の請求はできないということになります。これは、被害者にとっては精神的苦痛を受けるほどの大切な物であっても変わりはありません。
例えば、長年愛用してきた物や家族の形見、さらにはペットなどが該当します。ペットなどは精神的苦痛として認められそうなものですが、これらはすべて法律上では「物」として扱われています。少し非情に思えるかもしれませんが、法律に逆らうことはできないので納得せざるを得ないでしょう。とはいえ、過去には物損事故でも慰謝料の請求が認められた事例があるので、ご紹介します。
物損事故で慰謝料請求が認められた事例
交通事故による被害が感情や平穏な生活に強く影響を及ぼす場合などは、物損事故であっても例外的に慰謝料を請求できるケースがあります。代表的な例は次のようなケースです。
・家屋に車が突っ込んで家の一部が損壊した
・長年家族のように大切にしていたペットが亡くなった
物損事故の中でも、感情や生活に強く影響を及ぼす場合は慰謝料を請求できる可能性があります。しかし、上記の例はあくまで特殊な事例で、必ず慰謝料が認められるとは限りません。基本的には、物損事故では慰謝料を請求できないと考えておきましょう。
納得のいく額の入通院慰謝料を受け取るためのポイント
入通院慰謝料は、こちらの対応次第で金額が変動します。できるだけ納得のいく金額を受け取るためにも、損害賠償請求時のポイントを押さえておきましょう。
継続的に通院して最後まで治療を受ける
治療期間が長引いても、治療・リハビリに励んでいなければ治療期間に含まれない恐れがあります。入通院慰謝料は、治療期間や入通院日数などをもとに算出するものですので、医師の指導に従って適切に通院し、治療に取り組んでいなければ、十分な金額を受け取ることはできないでしょう。
納得いく額の慰謝料を受け取るには、交通事故によって受傷してから完治するまで継続的に通院する必要があります。被害者自身の判断で通院をやめたり、リハビリをさぼったりすることがないように注意しましょう。
記載漏れのない適切な診断書を作成してもらう
入通院慰謝料の請求にあたっては、医師の診断書が重要な証拠となります。診断書に必要な内容が漏れなく記載されていないと、適切な慰謝料が支払われない恐れもあるため、必ず記載漏れのない診断書を用意しましょう。痛み・しびれ・違和感といった目に見えない症状でも、遠慮なく申し出て診断書に記載してもらうべきです。
なお、打撲や骨折等の治療を整骨院や接骨院に頼った場合は注意しましょう。整骨院や接骨院でも治療やリハビリは可能ではあるものの、医師ではないので診断書を作成してもらえません。整骨院や接骨院に通院する際も、必ず専門医の定期的な診察を欠かさないようにしましょう。
弁護士に依頼する
十分な入通院慰謝料を獲得するには、弁護士基準を用いて請求するのがおすすめです。弁護士を代理人に付けて相手保険会社との交渉を進めてもらえば、3つの計算基準のうち最も高額な弁護士基準での慰謝料獲得が望めます。
すでに入通院慰謝料の交渉を進めていて相手保険会社とトラブルになっている状況でも、弁護士が代理人として交渉の場に立つことで、相手保険会社がこちらの希望を素直に受け入れて問題解決に至るというケースも珍しくありません。
弁護士が代理人に付くということは保険会社に対して強いプレッシャーを与えるため、交通事故被害者の主張を強く押し通すためには、弁護士にアドバイスやサポートを求めるのが効果的です。
まとめ
人身事故の被害に遭って入通院した場合は、軽傷・重傷問わず入通院慰謝料の請求が可能です。入通院慰謝料は、治療期間や入通院日数などをもとに計算し、請求時は弁護士基準を用いることで高額になる可能性があります。
入通院慰謝料の請求にあたっては、治療終了まで(症状固定の診断を受けるまで)慰謝料額を決定せず、適切な治療やリハビリに励むことが大切です。相手保険会社の言いなりになっていると、本来よりも低い金額しか受け取れない恐れもありますので注意しましょう。
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