後遺障害診断書(こういしょうがいしんだんしょ)とは、正式には自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書と呼び、交通事故で負った後遺障害の認定手続きに必要となる書類のことです。後遺障害等級の認定は主としてこの診断書をもとに判断されるため、後遺障害が認定されるか否かに直結する大事な書類です。
実務では後遺障害診断書は通院先の主治医が作成しますが、医師は医学の専門家であっても、交通事故処理の専門家ではありません。したがって、主治医が交通事故処理に不慣れな場合、後遺障害診断書に不備が生じる可能性があり、その結果、認定されるべき後遺障害等級が認定されないといった事態も起こり得ます。
そのため、後遺障害申請する場合には、交通事故処理の専門家、すなわち弁護士に相談して、適切な等級が認定されるような後遺障害診断書の書き方のアドバイスを受けるのがもっとも手っ取り早い方法と言えます。
今回は、交通事故の被害者となり、治療の結果後遺症が残ってしまった場合に、後遺障害等級がきちんと認定される後遺障害診断書を書いてもらうための全手順をお伝えいたしますので、もしお困りの方がいたら、参考にしていただければ幸いです。
1:後遺障害診断書を作成するベストタイミングとは?
後遺障害診断書を作成するタイミングは、原則として「症状固定」となった後です。
症状固定と判断された場合、それ以降は、治療に係る費用(治療費や通院交通費)や休業損害などを加害者側に請求することはできなくなります。
もし保険会社から「症状固定にしましょう」と急かされても、症状固定とすべきか否かは担当医師(弁護士に依頼していたら弁護士にも)と相談して、慎重に判断してください。
整骨院では診断書が作成できないことに注意!
整骨院で施術をするのは柔道整復師であり医師ではありません。つまり整骨院では後遺障害診断書を作成できないので注意が必要です。
整骨院の方が通いやすいといった理由で、交通事故の後から整骨院だけに通院していると、いざ後遺障害診断書を作成してもらおうと病院に行っても、医師からはこれまでの症状の経緯がわからないからという理由で、後遺障害診断書の作成を断られてしまうケースがあります。
そのため、整骨院で治療をする場合であっても、最低でも月1回以上は医師の診断を受けるべきでしょう。
医学的知識のない一般人には少し難しいかとは思いますが、後遺障害診断書は後遺障害等級の決定に関わる重要な書類です。実際にあなた自身が書くことはないものの、どういった内容が書かれているのか程度には、知識として覚えておくことをおすすめします。
後遺障害診断書のダウンロード
▶︎書式の例
左側の欄に書く項目
①受傷日時:交通事故にあって怪我をした日付
②症状固定日:通常は最終の診察日です。
もしそれ以前の診察日や、「不詳」と書かれた場合には、その理由を医師に確認して下さい。
③当院入院期間(当院通院期間):後遺障害診断書を書いた病院での入院、通院期間。通院期間だけでなく、実際に治療した日数も記載されます
④傷病名:症状固定時に残存している症状の病名が記載されます。
⑤既存障害:交通事故以前の精神・身体障害があったかどうかを記載。
⑥自覚症状:被害者(患者)が医師に申告した自覚症状を医師が記載。
後遺障害診断書のなかで唯一、被害者自身が訴える部分ですので、その時の症状をできる限り詳細に申告しておくことが重要です。
⑦『①精神、神経の障害・他覚症状および検査結果』:他覚症状および検査結果を記載する項目となっており、どの部位で「痛み」が残っているのか、神経症状(むちうちなど)はこの欄に検査結果や他覚症状を記載します。レントゲンやMRIなどの画像所見についてもこの欄に記載されます
⑧『②胸腹部臓器、生殖器、泌尿器の障害』:各部位に関する検査結果、他覚所見が記載。
⑨『③眼球、眼瞼の障害』:各部位に関する検査結果、他覚所見が記載。
右側の欄に書く項目
④聴力と耳介の障害
⑤鼻の障害
⑥そしゃく・言語の障害:耳や鼻や口の障害について、それぞれ行った検査をした結果を記載。
⑦醜状障害:醜状痕が残っている場合に記載。
⑧脊柱の障害:脊柱(背骨)の圧迫骨折や脱臼があった場合に記載。
・運動障害:脊柱の障害として、頚椎捻挫や腰椎捻挫などの場合に記載。
⑨体幹骨の変形:体幹骨が変形した場合に記載。
⑩上肢・下肢および手指・足指の障害:
短縮・欠損・変形・関節機能などの障害を記載。関節に可動域制限が残っている場合には、ここに記載されます。
・障害内容の増悪・緩解の見通し:「症状固定」「今後の緩解の見通しはない(または不明)」などと記載してもらうと良い。
もし後遺障害診断書に不適切な内容を記載された場合、後遺障害等級が本来取れる等級よりも低くなるか、場合によっては等級そのものが認定されない可能性もありますから、医師に適切な後遺障害診断書を作成してもらえるよう、5つのポイントをご紹介していきます。
1:自覚症状をできるだけ正確に伝える。
自覚症状は等級認定の可否を判断する最も重要なポイントですので、例えば、右手のしびれがある、頭が痛い等、どの部位がどのように痛むのか、どんな症状があるかを正確に医師に伝えてきちんと記載してもらうようにしましょう。
2:診断書の記載内容を医師の判断に一任しすぎない
医師に任せておけば全部大丈夫だろうと、全て丸投げしてしまうのは危険です。自覚症状などを言葉で伝えることは難しく、うまく表現できないときもあるかと思いますが、曖昧な返事で医師の質問に答えてしまうと、不正確な表現で記載されてしまう可能性もあります。
そうなると等級認定は難しくなってしまいますので、根気よく、しっかり話し合って進めていただくと良いでしょう。場合によっては、自覚症状についてメモに記載しておき、医師に手渡すことも有効です。
3:作成後は記入漏れがないか必ず確認する。
後遺障害診断書ができたら保険会社に提出する前に必ずその内容を確認しましょう。自分の言ったことが正確に伝わっているか、記入漏れがないかなどをチェックし、記入漏れがあれば追記を依頼します。
4:後遺障害診断書を書いたことがある医師に作成を依頼する
全ての医師が後遺障害診断書を書いたことがあるわけではありません。交通事故のごたごたに巻き込まれたくないからと、作成を拒否してきた医師も中にはいるかもしれません。後遺障害診断書の作成は必ず作成経験のある医師に担当してもらうようにしましょう。
症状固定のタイミングで他の医師を探して後遺障害診断書を記載してもらうのは難しいので、事故直後の通院を始める段階から交通事故の経験がある医院に通院しておくことが大切です。
5:診断書を作成してくれる可能性がある病院選びをする
基本的にはどこの病院でも診断書の作成は引き受けてくれますが、もし引き受けてもらえない場合の対策は「医師が診断書を書いてくれない場合の対策」で解説しています。
まずは以上のように、適切な後遺障害等級を受けるために、「適切な後遺障害診断書を書いてくれる医師」や「病院」選びをすることも大事な要素と言えます。
しかし、担当医師や病院が後遺障害診断書を書いてくれない場合も考えられます。
交通事故で多く発生する症状の一つに、「むちうち」などの神経症状があります。レントゲンやMRI検査などの画像には写りにくい症状であるため、後遺障害としての認定基準のひとつ「医学的に証明できるかどうか」をクリアできない可能性もあります。
そうなると、後遺症が残っていると認められず、後遺障害等級も認定されません。自覚症状はあるのに、レントゲンなどに映らない神経症状がある場合、医師と相談して以下の検査を受けてみるのも良いでしょう。
ジャクソンテスト
神経根障害を検査をするための方法で、座った状態から頭を後ろに倒していくことで、肩・腕・手などに痛みやしびれが出るかどうかを調べます。
スパーリングテスト
この検査も神経根障害を検査するための方法で、頭を後ろに倒した状態で左右に傾けていくことで、肩・腕・手などに痛みやしびれが出るかどうかを調べます。こちらも神経根障害を調べるという意味ではジャクソンテストと同じですが、どちらの検査もしびれや痛みがあるかどうかは自己申告になりますので客観性は担保されません。このテストが後遺障害と認められる決定打になるかというと明言はできませんが、やっておいて損はないと思います。
腱反射テスト
腱をハンマーで叩いて、その反射の有無をみる検査方法です。神経に障害があると腱反射が喪失したり低下したりします。膝下の腱をポンとたたいて足が上がるかどうかをみる脚気(かっけ)の検査と同じものです。ジャクソンテストやスパーリングテストとは異なり「患者自身の意思に左右されない」という点から、後遺障害等級認定において重要視される部分と言われています。
筋電図
筋肉に電気を流し、その反応をみていく検査です。神経の痛みや筋肉の状態を把握する検査としては、実証性の高い検査方法と言えます。ただし、検査の精度が医師によってまちまちであるなど、期待するような結果が出ない場合もあるでしょう。これまでにご紹介したような検査方法と同様、後遺障害等級認定の決定打になるとは限りませんので、病院の医師の指示や、交通事故が得意な弁護士がいれば、そのアドバイスを仰ぐのが一番確実な方法かと思います。
後遺障害診断書の作成には費用がかかります。一般的には5千円~1万円程度の費用であるとお考えください(費用は病院ごとに異なります)。
後遺障害診断書の作成料は後遺障害が認定されれば加害者に請求できますが、認定されない場合は自己負担となる可能性が高いです。
後遺障害診断書の必要性はこれまでお伝えしてきたとおりですが、医師が後遺障害診断書を書いてくれない理由とは何なのでしょうか?
1:交通事故の紛争に巻き込まれたくない
2:後遺障害診断書の書き方を知らない
3:そもそも書かないという病院の方針
しかし、ほとんどの医師や病院は依頼があれば後遺障害診断書を書いてくれます。したがって、通常どおり通院をして治療を受けていれば、後遺障害診断書の作成を拒否されるということはないでしょう。
つまり、その病院に通院して治療をしていたという実績を作ることが大事です。それでも医師が後遺障害診断書を書いてくれない場合は、セカンドオピニオンを行い、他の病院で検査、診断書の作成を依頼することをおすすめします。
そこで疑問に思うのは、「後遺障害診断書を、ちゃんと後遺障害等級の認定を取れるように書いてくれる医師はどうやって探せばいいのか」ではないでしょうか?
後遺障害診断書に詳しい医師の見つけ方
交通事故の案件に慣れている医師を探すのは、一般の方にとっては至難の業です。知り合いや保険会社から紹介してくれればある程度は信用性が高いと思いますが、確実ではありません。
方法としては、交通事故の案件を得意とする弁護士に相談してみるのが無難かと思います。交通事故を専門に扱う弁護士であれば、その医師にも精通している可能性は高いので、1度相談されてみるのも選択肢のひとつと言えますね。
後遺障害(後遺障害診断書の書き方など)に詳しい弁護士に相談する
交通事故の案件を多く取り扱う弁護士であれば、後遺障害診断書の書き方、提出する画像の種類、実施すべき検査など、豊富な認定経験をもとに有効な戦略を得られます。
自分で保険会社と戦う場合よりも、適切な後遺障害等級認定を受けられる確実性はかなり高まるでしょう。
記載内容が十分でない場合などには、書き直しをしてもらわなければ困りますが、医師によっては書き直しを拒否する場合もありますので、一番効率が良いのは自分の目の前で書いてもらうようお願いすることです。
もし無理なようであれば、一旦医者に任せておいて、書いてもらった後すぐに内容のチェックをしましょう。修正箇所が見つかり次第、すぐに病院に行き、後遺障害診断書の修正をして欲しい旨を伝えます。
「後遺障害診断書の書き直しはできない」と断られた場合、「事実と異なる内容がある、このままでは問題がある」とお伝えすれば、医者と直接話せる可能性が高まります。
ここで諦めてしまうと、本来獲得できるはずであった損害賠償金が10倍以上も変わる可能性がありますし、認定されなければ0円です。絶対に諦めてはいけません。
【後遺障害等級別の損害賠償額の違い】
等級
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自賠責基準
(2020年3月31日までに発生した事故)
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任意保険基準(推定)
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弁護士基準
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第1級
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1,150万円
(1,100万円)
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1,600万円程度
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2,800万円
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第2級
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998万円
(958万円)
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1,300万円程度
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2,370万円
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第3級
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861万円
(829万円)
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1,100万円程度
|
1,990万円
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第4級
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737万円
(712万円)
|
900万円程度
|
1,670万円
|
第5級
|
618万円
(599万円)
|
750万円程度
|
1,400万円
|
第6級
|
512万円
(498万円)
|
600万円程度
|
1,180万円
|
第7級
|
419万円
(409万円)
|
500万円程度
|
1,000万円
|
第8級
|
331万円
(324万円)
|
400万円程度
|
830万円
|
第9級
|
249万円
(245万円)
|
300万円程度
|
690万円
|
第10級
|
190万円
(187万円)
|
200万円程度
|
550万円
|
第11級
|
136万円
(135万円)
|
150万円程度
|
420万円
|
第12級
|
94万円
(93万円)
|
100万円程度
|
290万円
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第13級
|
57万円
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60万円程度
|
180万円
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第14級
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32万円
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40万円程度
|
110万円
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後遺障害の認定が非該当となってしまったケースの理由をまとめると、主に以下の5つの理由があげられます。
・後遺障害認定を裏付ける医学的所見に乏しい
・自覚症状を裏付ける客観的な所見に乏しい
・将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉えがたい
・画像上は外傷性の異常所見は認められない
・事故受傷との相当因果関係は認めがたい
このような場合の対応としては、まずは後遺障害認定に対する異議申立て書を『自賠責保険会社』に提出する方法があります。異議申立ては何度でも行うことが出来ますが、新たな医学的証拠がない場合には認定が覆ることはまずないと思っておきましょう。
後遺障害診断書は後遺障害等級の認定を受ける上で非常に重要なものです。適切な後遺障害診断書を作成してもらうためには、医師とのコミュケーションを密に取って自分の自覚症状などを正確に伝える必要がありますが、それはもはや被害者の義務ともいえます。
面倒な作業かもしれませんが、ここで頑張っておくと、少なくとも金銭的な面での苦労は最小限に抑えることが出来ますので、あなたが根気よく続けてくことを強く願っています。