後遺障害10級で障害者手帳はもらえる?慰謝料相場や労災についても解説
「交通事故の後遺症で後遺障害10級に認定されたが、障害者手帳はもらえるの?」
「後遺障害10級に認定された場合の、慰謝料の相場はどのくらいなんだろう?」
交通事故に遭い後遺障害10級に認定されたものの、具体的な認定基準はもちろん、障害者手帳がもらえるのか気になっている方もいるかもしれません。
また、慰謝料などの相場をあまり理解しておらず、不安を抱えている方もいるでしょう。
そこで本記事では、後遺障害10級の具体的な症状や認定基準のほか、後遺障害10級に認定された場合の慰謝料相場・逸失利益について解説します。
後遺障害10級とは?具体的な症状と認定基準
後遺障害10級の認定基準は、交通事故損害賠償法施行令により11区分が規定されています。
10級1号 |
視力が0.1以下 |
10級2号 |
正面を見た場合の複視 |
10級3号 |
咀嚼又は言語機能に障害 |
10級4号 |
14歯以上の歯科補綴 |
10級5号 |
両耳の聴力が普通の話し声を解することが困難 |
10級6号 |
耳の聴力が大声でしか聞こえない |
10級7号 |
手の親指または親指以外の二指の用を廃したもの |
10級8号 |
下肢を3cm以上短縮 |
10級9号 |
足の第一足指または他の四足指を失ったもの |
10級10号 |
上肢の一関節の機能に著しい障害 |
10級11号 |
下肢の一関節の機能に著しい障害 |
ここからは、それぞれの等級における症状についてもう少し詳しく見てみましょう。
- 10級1号(視力が1以下)
眼鏡やコンタクトを使った状態でも片方の目の視力が1以下に低下した場合、視覚に大きな影響が出ます。これにより、深視力の低下や視野の狭まりが生じるため、車の運転や細かい作業が困難になることがあります。 - 10級2号(正面を見た場合の複視)
眼筋の麻痺などが原因による正面を見た際に物が二重に見える状態は、日常生活における視覚的なストレスを引き起こし、集中力や作業効率が低下します。 - 10級3号(咀嚼又は言語機能に障害)
かみ合わせや顎関節などの障害で固めの食べ物を十分に噛めない場合、もしくは一部の音が発音できない場合が該当します。咀嚼機能の低下は食事の楽しみを損なうだけでなく、栄養摂取にも影響を与えます。また、言語機能の障害はコミュニケーション能力に重大な障害となり、社会生活や職業生活に影響します。 - 10号4号(14歯以上の歯科補綴)
14本以上の歯に対して入れ歯やブリッジといった処置(歯科補綴)が必要になった場合が該当し、これに伴う費用も考慮する必要があります。 - 10級5号(両耳の聴力が普通の話し声を解することが困難)
1m以上の距離では普通の話声を聞きとれないと判断され、日常の会話や仕事でのコミュニケーションに支障が出ます。補聴器の使用や手話などの代替手段が必要になるでしょう。 - 10級6号(耳の聴力が大声でしか聞こえない)
片耳の平均純音聴力レベルが80デシベル以上90デシベル未満に該当する場合、大声でも耳に接しなければ聞き取れず、生活の質に影響します。特に音声が必要な職業や環境では多大な影響が出ます。 - 10級7号(手の親指または親指以外の二指の用を廃したもの)
片手の親指が麻痺などで動かなくなる、もしくは片手の親指以外の2本の指が麻痺などによって動かなくなった場合、日常生活の細かい動作が困難になります。特に親指の機能喪失は握力に大きな影響を与えます。 - 10級8号(下肢を3cm以上短縮)
X線写真などで左右の足を比較した際、どちらか一方の足が3cm以上5cm未満短くなっていることが認められた場合が該当します。下肢の短縮は歩行に支障をきたし、義足や補助具の導入が必要になる場合があります。なお、5cm以上短くなった場合には、後遺障害8級5号に該当します。 - 10級9号(足の第一足指または他の四足指を失ったもの)
片足の親指を付け根から先まで失った、もしくは親指以外の4本の足指を付け根から先まで失った場合が該当します。足の指の喪失はバランス感覚に影響し、歩行や立位が困難になるでしょう。 - 10級10号(上肢の一関節の機能に著しい障害)
左右どちらかの肩・ひじ・手の関節のうちいずれかひとつが半分ほどしか動かない場合、人工関節や人工骨頭に置き換えても可動域が2分の1以下に制限されるような上肢の関節障害が該当します。腕の動きに制限が生じるため、日常生活や仕事に大きな影響を与えます。 - 10級11号(下肢の一関節の機能に著しい障害)
左右どちらかの肩・ひじ・手の関節のうちひとつが半分ほどしか動かない場合、人工関節や人工骨頭に置き換えても可動域が2分の1以下に制限されるような下肢の関節障害が該当します。歩行や立位に影響し、生活において多大な支援が必要になる場合があります。
後遺障害10級で障害者手帳の交付を受けるのは難しい
後遺障害10級に認定された方の中には、障害者手帳の交付を受けられるか気になる方もいるでしょう。
ですが、身体障害者手帳の取得には厳しい基準が設けられており、後遺障害10級の場合には比較的軽度と見なされるため、取得が困難なのが実情です。
では、障害者手帳の交付を受けるための基準はどのようなものなのでしょうか。
障害者手帳の交付を受けるためには、障害等級6級以上が必要となる
障害者手帳の交付を受けるためには、7等級ある障害等級のうち6級以上でなければなりません。
例えば、後遺障害10級11号は片眼の視力が0.1以下であるのに対し、障害等級6級の場合は片眼の視力が0.02以下の場合が該当します。
このように、後遺障害10級は障害等級6級と比べ、認定基準となる症状が比較的軽度であることがうかがえます。
障害等級6級の認定基準
後遺障害6級の認定基準は以下の8つに区分されています。
6級1号 |
両眼の視力が0.1以下となったもの |
6級2号 |
咀嚼や言語の機能に著しい障害があるもの |
6級3号 |
両耳の聴力が耳に接しなければ大声を理解できない程度となったもの |
6級4号 |
耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を理解できない程度となったもの |
6級5号 |
脊柱に著しい変形または運動障害があるもの |
6級6号 |
上肢の三大関節中の二関節の機能を失ったもの |
6級7号 |
下肢の三大関節中の二関節の機能を失ったもの |
6級8号 |
手の五指または親指を含み四指を失ったもの |
後遺障害等級6級に認定される症状の詳細や、慰謝料相場について知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
後遺障害10級に認定された場合の慰謝料相場
ここでは、後遺障害10級に認定された場合の慰謝料相場を解説します。
慰謝料相場は自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準で異なる
交通事故の慰謝料は、自賠責基準、任意保険基準、弁護士基準のいずれかを用いて算定され、これにより金額が変動します。
最も高額になるのは弁護士基準で、最も低額なのは自賠責基準です。
任意保険基準は自賠責基準にやや上乗せした金額になります。
自賠責基準
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は、法律で加入が義務付けられている保険で、被害者に対する最低限度の補償を目的としています。
自賠責基準で算定される慰謝料は最も低額です。
自賠責基準での慰謝料は、被害者の怪我の程度や治療期間に基づいて計算されます。
例えば、入通院慰謝料としては、1日あたり一定の金額(例:4,300円程度)が支払われます。
任意保険基準
任意保険は加入が任意であるものの、多くの車両所有者が加入している保険です。
任意保険では、自賠責保険でカバーしきれない部分を補填できます。
任意保険基準で算定される慰謝料は、自賠責基準よりもやや高額ではあるものの大きな差はなく、保険会社が独自に設定する基準に基づいています。
また、具体的な金額は保険会社によって異なります。
弁護士基準
弁護士基準での算定は、過去の裁判例や、弁護士が作成する賠償基準に基づきます。
そのため、慰謝料の金額は自賠責基準や任意保険基準と比較して最も高額になります。
被害者が弁護士に依頼することで、適切な情報や過去の判例に基づいた交渉をおこない、より高額な慰謝料を受け取ることが期待できます。
基準ごとの慰謝料相場
自賠責基準では後遺障害10級の場合、慰謝料は190万円となります(2020年3月31日以前に発生した事故の場合は187万円)。
この金額は最低限の補償を目的としているため、比較的低めに設定されています。
任意保険基準では、200万円前後が一般的です。
任意保険会社は、被害者に対して自賠責以上の補償を提供することが多いですが、自賠責基準と大きく差がないため、通常は大きな額の補償にはなりません。
一方、弁護士基準では後遺障害10級の慰謝料が550万円とされており、自賠責基準と比べ約2.9倍もの差があります。
この基準は過去の裁判例などを基に算出されており、自賠責基準や任意保険基準に比べて非常に高額です。
弁護士に交渉を依頼することで、弁護士基準に基づいた高額な慰謝料を獲得する可能性が高くなります。
示談の成立後に取り消すことはできないため、賠償額が適正なのか、正しい示談になるのが、少しでもご不安がある場合、交通事故のトラブルに注力している弁護士へ相談することをおすすめします。
後遺障害10級に認定された場合の逸失利益
後遺障害が残ると働くことが難しくなり、収入が減少することがあります。
後遺障害の影響による減収分(逸失利益)を加害者に対して請求することはもちろん、慰謝料の請求によって取得額を上乗せすることも可能なケースもあります。
まずは、専門家である弁護士へ相談しましょう。
逸失利益の計算方法は、平成13年に国土交通省が定めた基準に基づき、以下の計算式で算出することができます。
逸失利益=収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に応じたライプニッツ係数
ここからは、国土交通省の定めた基準に基づく計算式について詳しく見てみましょう。
国交省の基準に基づく計算式
逸失利益の計算に当たっては、まず被害者の基礎収入を明確しなければなりません。
基礎収入は通常、事故前の収入や職業、年齢、性別などを考慮して算定されます。
会社員であれば直近の年収が基礎収入となり、事業所得者(いわゆる自営業)であれば、確定申告書などの収入証明書が用いられます。
その他、専業主婦(主夫)や学生等の未就労者の場合は、賃金センサスにおける平均年収を基準に算定できるケースもあります。
ご自身がどの基礎収入になるのか、判断がむずかしいと感じる場合は、まずは弁護士へ相談することが重要です。
次に、労働能力喪失率を決定します。
医師の診断書や後遺障害等級認定などに基づいて、どの程度の労働能力が失われたかを判断します。
労働能力喪失率は障害の程度に応じて割合が変わり、軽度の障害であれば低く、重度の障害であれば高く設定されます。
等級 |
割合 |
1級 |
100% |
2級 |
100% |
3級 |
100% |
4級 |
92% |
5級 |
79% |
6級 |
67% |
7級 |
56% |
8級 |
45% |
9級 |
35% |
10級 |
27% |
11級 |
20% |
12級 |
14% |
13級 |
9% |
14級 |
5% |
上表のとおり、後遺障害10級における労働能力喪失率は27%となります。
労働能力喪失期間は、被害者が交通事故によって生じた後遺障害の影響で、何歳まで労働能力を失ったとみなされるかを計算します。
通常、労働可能年齢である67歳までとされることが多いですが、個々の事情に応じて変わることもあるでしょう。
例えば、平均余命までの期間の2分の1の期間を適用できるケースもあります。
これらの要素を基に、ライプニッツ係数を用いて逸失利益を計算します。
ライプニッツ係数は、将来の収入を現在価値に割り引くための係数で、年数に応じて異なります。
では、実際に後遺障害10級に該当する「会社員」「専業主婦」のケースにおける逸失利益を見てみましょう。
ここでは2020年4月1日以降に発生した交通事故の場合を想定しています。
給与所得者(年収500万円、30歳)の場合
年齢:30歳
年収:500万円
労働能力喪失率:27%
就労可能年数(ライプニッツ係数):37年(22.167)
逸失利益 = 500万円×0.27×22.167 = 29,925,450円
よって、このケースにおける逸失利益は2,992万5,450円となります。
専業主婦(45歳)の場合
年齢:45歳
年収:約399万円(令和5年度賃金センサスより)
労働能力喪失率:27%
就労可能年数(ライプニッツ係数):22年(15.937)
逸失利益 = 399万円×0.27×15.937 = 17,168,930円
よって、このケースにおける逸失利益は1,716万8,930円となります。
そのほか、職業や収入ごとの逸失利益については以下の記事でも解説しているので参考にしてください。
必ずしも基準どおり逸失利益が認められるわけではない
ここまで後遺障害の等級審査や逸失利益に関して解説してきましたが、実際は必ずしも基準どおりに認められるわけではありません。
例えば、2019年度の損害保険料率算定機構の統計によると、10級が認められた件数は全体の3.26%(1715件)です。
全ての申請においても、何らかの等級が認められるのは5%ほどで、必ずしも申請をすれば認定が得られるものではなく、希望する等級に達しない可能性もあるのです。
仮に等級認定が得られた場合でも、その後の手続きが全て順調に進むとも限りません。
逸失利益を請求できない主なケース
以下のいずれかに該当する場合、逸失利益を請求できない可能性があります。
- アパート経営者や年金生活者
- 交通事故が発生する前からもともと収入がない高齢者
- 交通事故に遭っても労働能力が低下しない(パソコン作業がメインの仕事をしている場合など)
これらのいずれかに該当する場合、元の収入が変わらないか、仕事への影響が少ないと判断され、逸失利益が認められないことがあります。
ただし、それらもケースバイケースですから、まずは、弁護士へ相談してみることがよいでしょう。
さいごに
本記事で解説したように交通事故の後遺障害に対する慰謝料は、自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準の3つがあり、どの基準を採用するのか、また等級が1つ変わるだけでも金額が大きく変わります。
10級の後遺障害の症状は、ほかの等級と比べると社会復帰が難しいほどではないものの、ご自身の仕事内容によってはこれまでのように働くことが難しい可能性も否めません。
交通事故が原因で後遺障害が残ってしまったものの、等級の認定が認められない場合や、相手方の提示する慰謝料に納得できない場合は、交通事故トラブルに注力している弁護士への相談・依頼をおすすめします。
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