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脊髄損傷の後遺症と後遺障害等級の決まり方

弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士
監修記事
脊髄損傷の後遺症と後遺障害等級の決まり方

脊髄損傷(せきずいそんしょう)とは、交通事故や高いところからの落下事故の際に起こり得るものです。身体の機能に大きく関係している脊髄が損傷するため、後遺症が残り後遺障害等級が認定されることも珍しくありません

この記事では、脊髄損傷の後遺症と等級の決まり方についてご説明します。

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脊髄損傷とは

そもそも脊髄とは、人体の背中の脊柱管の中にある太い神経のようなもので、脳と繋がっています。脳に近いところから順に、頚髄、胸髄、腰髄、仙髄、尾髄に分かれており、脊髄は脳から出された指示を全身へと伝える役割を果たしています。

つまり、脊髄があるからこそ身体を動かすことができるのです。脊髄損傷は、身体を動かすために欠かせない脊髄が損傷した状態であるため、運動機能に大きな影響を及ぼします。

吉備高原医療リハビリテーションセンターが、1997年~2016年度までに退院した脊髄損傷者のデータを全国の労災病院や関連施設から集め、症状や原因について集計したデータによると、交通事故と転落、歩行の際の転倒が脊髄損傷の原因の多くを占めています

ちなみに最近では、高齢化に伴う頚椎の変形によって脊髄が損傷し、手の痺れや麻痺、激しい痛みなどが起こるケースも増えているようです。

脊髄損傷による後遺症の例

脊髄損傷は、どの部分が損傷するかによって症状が異なります。損傷したところよりも上位にある神経機能には問題は起こりません。損傷したところよりも下位の機能が大きく低下したり失われたりします。

また、うずくような痛みを伴うことが一般的です。脊髄損傷は完全損傷と不完全損傷に分けられ、それぞれ残り得る後遺症が異なります。

それぞれ詳しく確認していきましょう。

完全損傷

完全脊髄損傷は、損傷が起きた部位よりも下のすべての感覚と反射が失われます。

損傷部位が脳に近ければ近いほど重症です。脳に近いところが損傷する高位脊髄損傷では、呼吸に関わる筋肉がうまく機能しなくなることで、呼吸困難に陥る可能性があります。

場合によっては、人工呼吸器がなければ生命維持ができなくなります。また、自律神経障害に伴い、血圧のコントロールに問題が生じ、低血圧や不整脈、血圧の不安定などがみられることもあります。

不完全損傷

不完全損傷は、脊髄の機能の一部だけが残った状態です。痛みや温冷感、触感などの知覚機能だけが残るものから、運動機能にはあまり問題を残さないものまでさまざまです。症状は一生続くこともあれば一時的な場合もあります。

脊髄を損傷してからしばらくすると、軽い症状が持続する慢性期に入ります。慢性期には、自らの意思で動かせなくなっていた筋肉が突然こわばったり、けいれんしたりするようになる場合があります。

麻痺の程度によっては、箸や鉛筆などを持つことが難しくなり、専用の器具が必要となります。また、歩行困難になると、杖や車いすが必要です。

脊髄損傷の合併症

脊髄損傷では、呼吸困難や低血圧などの他にも次のような合併症が起こる可能性があります。

消化器の異常

脊髄損傷が起きたばかりの急性期には、強いストレスによって胃潰瘍や十二指腸潰瘍ができる場合があります。潰瘍が進むと胃や十二指腸に穴が開きますが、脊髄損傷によって痛みの感覚が失われていると気づくことができません。

そのため、症状が進行して重篤な事態に陥ることもあります。さらに、脊髄損傷によって胃腸の働きが悪くなり、腸閉塞が起こることもあり、さまざまな点で注意が必要です。

泌尿器の異常

脊髄損傷によって排尿機能が障害されると、腎臓から尿道までの間で細菌が繁殖する尿路感染症のリスクが高まります。その細菌が全身へと回り、敗血症となって死亡するケースもあります。このような事態を防ぐために、排尿に用いる器具を常に清潔にしておくことが重要です。

床ずれ

ずっと同じ姿勢で寝ていると、身体が痛くなったり痺れたりします。感覚が正常であれば、無意識のうちに寝返りをうつことができますが、脊髄損傷によって感覚が麻痺していると同じ姿勢を続けてしまい、床ずれとなります。

また、一部分が継続的に圧迫されて、血液の流れが悪くなり、皮膚や筋肉の組織が壊死してしまうケースもあります。

脊髄損傷で後遺障害等級を得るには検査が必須

脊髄損傷の後遺症が残った場合は、後遺障害等級が認定されます。認定を受けるためには、まずは交通事故と脊髄損傷の因果関係の証明が必要です。脊髄損傷はすぐに症状が現れるため、比較的因果関係の証明が簡単です。

まずは、医療機関を受診して必要な検査を受けましょう。次のような検査が行われます。

神経学的診断

手足の動きや感覚の異常の有無、膀胱や肛門括約筋が機能しているかなどを調べます。麻痺や感覚異常がある場合は、そのレベルまで検査します。

画像診断

レントゲン検査やCTスキャンによって骨折や脱臼を調べます。また、脊髄の状態をより詳しく調べ、具体的にどこがどのように損傷しているのか検査します。

MRI

MRIで椎間板が脊柱管の内側へ飛び出して(脱出)いないか、血腫はできていないか、どのくらい脊髄が圧迫されているかなどを調べます。

電気生理学的検査

神経を刺激して異常波を観測することで、脊髄の状態を調べます。脊髄損傷で認定される可能性がある後遺障害等級は、第12級・第9級・第7級・第5級・第3級・第2級・第1級とされています。

第9級以上は、脳や脊髄などの中枢神経に異常があることが原則です。これは、第9級以上の認定の基準に、『労働能力に影響を与える』という内容があるためです。

表:後遺障害等級第9級の場合(参考:国土交通省|後遺障害等級)

  1. 両眼の視力が〇・六以下になつたもの
  2. 一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
  3. 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
  4. 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの
  5. 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの
  6. 咀嚼及び言語の機能に障害を残すもの
  7. 両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの
  8. 一耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの
  9. 一耳の聴力を全く失つたもの
  10. 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  11. 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの
  12. 一手のおや指又はおや指以外の二の手指を失つたもの
  13. 一手のおや指を含み二の手指の用を廃したもの又はおや指以外の三の手指の用を廃したもの
  14. 一足の第一の足指を含み二以上の足指を失つたもの
  15. 一足の足指の全部の用を廃したもの
  16. 外貌に相当程度の醜状を残すもの
  17. 生殖器に著しい障害を残すもの

中枢神経は身体を動かすために欠かせないものであるため、損傷すると運動能力が低下し、それに伴い労働能力も低下します。

なお、第12級は局所的に頑固な神経症状が残った場合に認定されます。一部のみの神経症状であれば労働能力が大きく低下することは少ないため、第9級以上の認定は受けられません。慰謝料額は、第1級に近づくほど高くなります。

表:等級・基準別の慰謝料一覧

等級

自賠責基準

(2020年3月31日までに発生した事故)

弁護士基準

第1級

1,150万円

(1,100万円)

2,800万円

第2級

998万円

(958万円)

2,370万円

第3級

861万円

(829万円)

1,990万円

第4級

737万円

(712万円)

1,670万円

第5級

618万円

(599万円)

1,400万円

第6級

512万円

(498万円)

1,180万円

第7級

419万円

(409万円)

1,000万円

第8級

331万円

(324万円)

830万円

第9級

249万円

(245万円)

690万円

第10級

190万円

(187万円)

550万円

第11級

136万円

(135万円)

420万円

第12級

94万円

(93万円)

290万円

第13級

57万円

180万円

第14級

32万円

110万円

さらに、慰謝料額は相手の対応や事故の過失割合などさまざまな影響によって変わるため、弁護士に交渉を任せることをおすすめします。

脊髄損傷の後遺症は完治するのか?

脊髄損傷は、従来治療ができないものとされていましたが、近年の目覚ましい医学の進歩により、今後治るようになる可能性があります。現在、研究されている治療法に以下のものがあります。

細胞移植療法

細胞移植療法は、脊髄の損傷した部分に細胞を移植し、運動機能や知覚機能などの改善を目指す治療法です。移植する細胞にはいくつかの候補があり、どれが適しているかはまだ研究段階です。また、移植した細胞のがん化や感染症などの課題もあり、実用化には至っていません。

細胞以外を移植する方法

細胞移植療法の他にも、神経栄養因子や肝細胞増殖因子などを脊髄に補充する治療法の研究が進められています。

肝細胞増殖因子を移植する治療法は日本でも治験が進んでおり、近い将来に実用化されることが期待できます。他にも、さまざまな治療法が開発される可能性があります。

まとめ

脊髄損傷は、後遺障害が残る可能性が高いものであるため、医師の指示に従って検査を受けましょう。そして、必要に応じて後遺障害等級の認定を受け、それを元に示談交渉をします。

後遺障害等級に応じた慰謝料の請求などは、弁護士に相談するのがおすすめです。専門家に任せることで、本来請求できる慰謝料額が少なくなるといった事態を防げるでしょう。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
編集部

本記事はベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ交通事故(旧:交通事故弁護士ナビ)に掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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