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交通事故に遭うと、耳に後遺障害が残ってしまうケースも多々あります。聞こえにくくなる場合もありますし、耳鳴りや耳垂れが起こるケース、耳が欠けてしまう症状もあります。
今回は、交通事故の耳の後遺障害の種類や裁判例をご紹介していきます。
まずは、耳に関する後遺障害にどのようなものがあるのか、見ていきましょう。
代表的な耳の後遺障害は、「聴力障害」です。交通事故による受傷で耳が聞こえにくくなったり、まったく聞こえなくなったりする後遺障害です。
「ピー」などの純音を聞くことができるかどうかを調べる「純音聴力検査」と、人の話し声を識別できるかどうか調べる「語音聴力検査」によって聴力を判定します。両耳に聴力障害が残ると、片耳のケースよりも高い等級が認定されます。
以下では、両耳の後遺障害と片耳の後遺障害に分けて聴力障害の症状と等級をご紹介します。
状態 |
等級 |
両耳の聴力を完全に失った |
4級3号 |
両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になった |
6級3号 |
1耳の聴力を完全に失い、他耳の聴力が40㎝以上の距離では普通の話声を解することができない程度になった |
6級4号 |
両耳の聴力が40㎝以上の距離で普通の話声を理解できない程度になった |
7級2号 |
1耳の聴力を完全に失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を理解できない程度になった |
7級3号 |
両耳の聴力が1m以上の距離で、普通の話声を理解できない程度になった |
9級7号 |
1耳の聴力が耳に接しなければ大声を理解できない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難になった |
9級8号 |
両耳の聴力が1m以上の距離で、普通の話声を解することが困難な程度になった |
10級5号 |
両耳の聴力が1m以上の距離で、小声を理解できない程度になった |
11級5号 |
状態 |
等級 |
片耳の聴力を完全に失った |
9級9号 |
片耳の聴力が耳に接しなければ大声を理解できない程度になった |
10級6号 |
片耳の聴力が40㎝以上の距離では、普通の話声を理解できない程度になった |
11級6号 |
片耳の聴力が1m以上の距離で、小声を理解できない程度になった |
14級3号 |
交通事故によって聴力障害が認められなくても、耳鳴りが止まらなくなるケースがあります。その場合にも、程度によっては後遺障害として認定される可能性があります。
状態 |
等級 |
検査によって難聴に伴う著しい耳鳴が常時あると証明できる |
12級相当 |
難聴に伴って常時耳鳴りがあると合理的に説明できる |
14級相当 |
耳鳴りについての検査は、「オージオメータ」と呼ばれる聴力検査装置や耳鳴り用の検査装置を使った検査です。「ピッチ・マッチ検査」と「ラウドネス・バランス検査」の2種類があります。
ピッチ・マッチ検査は耳鳴りの音の「種類」、ラウドネス・バランス検査では耳鳴りの音の「大きさ」を明らかにします。これらの検査によって耳鳴りが常にあると医学的に証明できれば12級相当、検査によって明確には証明できないが、おそらく耳鳴りがあると合理的に説明できる場合には14級相当となります。
耳漏とは、耳から「耳だれ」が起こることです。交通事故の外傷によって鼓膜に穴が空くと(このことを「外傷性穿孔」と言います)、内部の分泌物が外に出てくるために耳だれが発生します。
常時耳だれが起こるようであれば12級、それ以外の場合には14級となります。また、交通事故の外傷によって外耳道が狭窄したけれども耳だれは伴わないケースでも、耳漏の後遺障害として14級が認定されます。
状態 |
等級 |
常時耳漏がある |
12級相当 |
常時ではないが、耳漏がある |
14級相当 |
外傷によって外耳道が狭窄したが耳漏は伴わない |
14級相当 |
耳殻とは耳の軟骨部分、つまり「耳」として外から見えている部分を言います。交通事故で顔面や頭部を受傷すると、耳の軟骨を欠損することがありますが、その2分の1以上が失われると12級に認定されます。
状態 |
等級 |
耳の軟骨部の2分の1以上を欠損した |
12級4号 |
ただ、耳殻を欠損した場合、多くのケースでは「外貌醜状」の後遺障害認定基準にも該当します。耳殻の2分の1以上を欠損すると、「外貌の著しい醜状」として7級12号が認定されますし、2分の1以下であっても「外貌の醜状」として12級14号が認定される可能性があります。
このような場合、より高い方の後遺障害認定基準が当てはめられます。耳殻の欠損障害と外貌醜状では外貌醜状の認定等級の方が高いので、現実には外貌醜状の等級が優先的に適用されるケースが多くなります。
以下では、耳の後遺障害についての裁判例をご紹介します。否定例と肯定例です。
バスが急ブレーキをかけたため、乗車していた被害者が受傷してバス側に賠償金の請求を求めました。原告は、左の耳小骨を離断したことなどによる耳の後遺障害と回転性めまいの後遺障害(神経障害)を主張しました。
裁判所は、耳の後遺障害については否定しましたが、回転性めまいの神経障害については認めました。耳の後遺障害が否定されたのは、被害者は事故当時、聴力などに異常が見られなかったことや、事故時に耳を強打したと認定できなかったからです。
一方、回転性めまいについては、受傷当初から症状があり、眼振や平衡機能検査の結果に異常所見が認められることから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として12級13号の後遺障害を認定しました。他にも、頸椎捻挫などの後遺障害として14級9号を認め、併合12級と評価されました。
被告に対しては、後遺障害12級を前提に、709万39円の支払命令が下りました。
事件番号 平成28(ワ)415 事件名 損害賠償請求事件 裁判年月日 平成30年3月30日 裁判所名・部 福岡地方裁判所 第2民事部 |
直線道路を横断しようとしていた被害者(当時12歳)に対し、加害者が運転していた車両が衝突して重傷を負わせた交通事故です。被害者の受傷内容は、頭部外傷、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、左顔面神経麻痺、左聴の障害、症候性てんかんでした。
被害者が高次脳機能障害になったかどうかなどが争われましたが、裁判所は高次脳機能障害を認めました。後遺障害としては、左耳の聴力を完全に喪失したので後遺障害9級9号、高次脳機能障害の9級10号の後遺障害を認め、併合8級に認定しました。
その上で、労働能力45%として逸失利益3,452万6,225円としました。慰謝料については傷害慰謝料150万円、後遺障害慰謝料850万円の合計1,000万円と認定しました。
さらに過失相殺25%を加味し、既払い金などを差し引いて、2,723万2,538円と遅延損害金の支払命令が下されています。
事件番号 平成15(ワ)849 事件名 損害賠償請求事件 裁判年月日 平成17年6月16日 裁判所名・部 民事部 |
耳の後遺障害を調べるとき、聴力検査の方法が非常に重要なポイントとなります。聴力障害は、「純粋な音を聞くことができるか」「人の話し声を理解することができるか」という2つの検査によって判定されます。
純粋な音を聞くことができるか調べるのが「純音聴力検査」、人の話し声を理解することができるかを調べるのが「語音聴力検査」です。
純音聴力検査は、ヘッドホンをつけて「オージオメータ」という装置から流れるいろいろな周波数の「純音」を聞き、聞こえるかどうかによって聴力を測る方法です。一般の健康診断などで聴力検査を受けるときにも、純音聴力検査が行われます。
ヘッドホンからは「ピー」などの音が聞こえており、被験者は聞こえるか聞こえないかを検査者に伝えます。さまざまな周波数の音を、強さを変えながら聞かせ、どの周波数の音がどの程度聞こえているかを確認します。
被験者が聞くことのできる最小の音の大きさにより純音聴力を明らかにします。
語音聴力検査を行うときには、ヘッドホンをつけて「あ」や「か」などの言葉を聞き、どれくらい明瞭に聞き取れるかを測定します。「語音明瞭度」「語音弁別能」と呼ばれる場合もあります。
これから耳の後遺障害についての後遺障害認定の申請をされる方は、上記2つの検査について是非とも押さえておきましょう。
交通事故では耳や顔、頭などを損傷するケースが多数あります。高次脳機能障害や神経障害、外貌醜状などと同時に起こるケースも珍しくありません。
耳の後遺障害が残ったら、耳鼻科に行って聴力検査や耳鳴りに関する検査などの必要な検査を受けて、きちんと後遺障害認定を受けましょう。自分一人で対応するよりも弁護士に依頼した方が後遺障害認定も受けやすく慰謝料も増額されやすいので、悩んでおられるなら一度交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談することをおすすめします。
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