労働能力喪失率とは?後遺障害の逸失利益を計算するための基礎知識

交通事故に遭って後遺障害が残ったときには「労働能力喪失率」が非常に重要です。労働能力喪失率とは、後遺障害によってどの程度労働能力が失われたかという割合です。
その割合によって、相手に請求できる「逸失利益」の金額が大きく異なってきます。今回は、交通事故被害者が知っておくべき「労働能力喪失率」について解説します。
労働能力喪失率の喪失率表
労働能力喪失率については、自賠責保険が定める数値があります。
別表一の場合
等級 |
労働能力喪失率 |
100% |
|
100% |
別表二の場合
等級 |
労働能力喪失率 |
100% |
|
100% |
|
100% |
|
92% |
|
79% |
|
67% |
|
56% |
|
45% |
|
35% |
|
27% |
|
20% |
|
14% |
|
9% |
|
5% |
必ず喪失率表が適用されるとは限らない
上記のように、自賠責保険は労働能力喪失率について基準となる数値を定めており、任意保険との示談交渉や訴訟でも当該数値は尊重されます。もっとも、後遺障害の内容や実際に仕事ができなくなっているか、どの程度支障が発生しているか、職種と後遺障害の関係などにより、これと異なる労働能力喪失率が適用される場合もあります。
後遺症が職業へ与える影響が大きい
職業的に後遺症によって受ける影響が大きい場合には、喪失率表よりも労働能力喪失率が高めに認定されることもあります。逆に、仕事に影響がない場合には労働能力喪失率は低く認定されることもあります。
たとえば、サッカー選手が足に後遺症を負ったケースなどは、一般人よりも喪失率が高く設定される可能性はあるかもしれません。
後遺症による精神的ダメージが大きい
後遺症によって受ける精神的ダメージが大きい場合には、労働能力喪失率には影響しませんが、「慰謝料」が増額される可能性があります。たとえば、顔面醜状の後遺障害を負ったものの、仕事にはあまり影響がない場合などです。
労働能力喪失率は逸失利益の計算に必要
労働能力喪失率は、「逸失利益」を計算するための要素です。逸失利益とは、交通事故で後遺障害が残ったことにより失われた「将来の収入」です。
後遺障害が残ると身体が不自由になって、思うように働けなくなるので、生涯にわたる収入が低下すると考えられています。その減収分の逸失利益は、「労働能力喪失期間」と「労働能力喪失率」を使って計算されます。
労働能力喪失期間はいつまで
逸失利益を計算するときには、労働能力喪失率だけではなく、「労働能力喪失期間」が重要な要素となります。これはわかりやすく言うと、「いつまで働けるか」という期間です。
労働能力喪失期間が長くなればなるほど、逸失利益は高額になります。一般的な被害者の場合には、「67歳」が就労可能年齢の限度とされます。
既に67歳以上であるが仕事をしているような場合や、67歳を超えても就労可能性があるような場合は、「平均余命の2分の1までの期間」を労働能力喪失期間とすることもあります。平均余命とは、同じ年齢の人が平均してあと何年生きるかという期間です。
年齢ごとの平均余命は、厚生労働省が発表しています。
逸失利益の計算例
以上を前提に、逸失利益の計算例を見てみましょう。逸失利益の計算式は以下のとおりなので、これを当てはめて計算します。
逸失利益=事故前の基礎収入(年収)×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数 |
ライプニッツ係数は、逸失利益を一括で前払いしてもらう利益を調整するための係数です。
年収600万円のサラリーマン(40歳)が後遺障害5級となった場合
600万円(年収)×79%(後遺障害5級に対応する労働能力喪失率)×14.643(就労可能年数27年に対応するライプニッツ係数)=6,940万782円 |
年収500万円の自営業者(35歳)が後遺障害7級となった場合
500万円(年収)×56%(後遺障害7級に対応する労働能力喪失率)×15.803(就労可能年数32年に対応するライプニッツ係数)=4,424万8,400円 |
年収800万円のサラリーマン(55歳)が後遺障害3級となった場合
800万円(年収)×100%(後遺障害3級に対応する労働能力喪失率)×8.8633(就労可能年数12年に対応するライプニッツ係数)=7,090万6,400円 |
減収していない場合の労働能力喪失率の扱い
逸失利益は、「後遺障害が残ったことによって得られなくなった将来の収入」に対する補償ですから、「後遺障害によって減収が発生している」ことが前提です。後遺障害が残っても減収がなければ、逸失利益の認定で不利となる可能性はあります。
しかし、収入減少がなければ一律逸失利益が認められないというものでもありません。たとえば、以下のようなケースでは逸失利益は否定されないでしょう。
もちろん、こちらは例ですので、最終的にはケース・バイ・ケースとして個別に判断する必要があります。
本人の努力で減収を防いでいる
被害者本人の努力により労働能力喪失に伴う減収が回避されているような場合、「本来なら減収が発生しているはず」という意味で逸失利益は認められます。
勤務先から配慮を受けている
勤務先による配慮により減収が発生していないケースでも、「本来なら減収が発生しているはず」として逸失利益は認められるでしょう。
逸失利益の請求は弁護士へ依頼するべき理由
交通事故に遭って後遺障害が残り、加害者に逸失利益を請求するのであれば、弁護士に依頼することを強くおすすめします。その理由は以下のとおりです。
法律の知識がないと適切な請求額を判断できない
今まで見てきたとおり、逸失利益の計算方法はかなり複雑です。また、上記の計算例では自賠責保険が定める労働能力喪失率をそのまま適用しましたが、現実には後遺障害の内容や仕事内容などの個別事情により、適宜修正されることもあります。
一般の方には、自分のケースでどのくらいの労働能力喪失率が妥当か判断するのは困難でしょう。弁護士に相談すれば、ケースに応じた適切な労働能力喪失率を検討してもらい、正しく逸失利益を計算してもらうことが可能です。
逸失利益は保険会社と揉め事になるケースが多い
逸失利益は、損害賠償金の項目の中でも非常に高額となるため、保険会社にとっては大きな支出です。そこで、保険会社としてはできるだけ逸失利益を減額したいとのインセンティブが働きます。
そのため、保険会社から「労働能力が失われていない」「減収が発生していない」と主張されることもよくあることです。
被害者が1人で示談交渉に臨んでいる場合、相手の言い分が妥当なのかどうか判断できません。減額に納得できないとき「おかしいと思う」と言っても、保険会社が「根拠を示してください」と言ってきたら太刀打ちできないでしょう。
弁護士に相談をしていたら、相手が不当に逸失利益を減額・否定してきたときに、適切に反論することが可能です。どうしても話し合いで解決できない場合には、訴訟を通じて逸失利益について適切な認定を得ることができます。
適切に権利を実現して逸失利益の支払いを受けたいなら、弁護士に依頼するようにしましょう。
まとめ
「労働能力喪失率」は聞き慣れない言葉かも知れませんが、被害者にとって非常に重要です。被害者が適切な補償を受けるため、逸失利益を正確に計算することは必須です。
事故前に仕事をしていた方が交通事故に遭って後遺障害が残ったら、交通事故に積極的に取り組んでいる弁護士に相談をして、示談交渉を進めてもらうのが良いでしょう。
弁護士に相談するかお悩みの方へ
下のボタンからあなた当てはまるものを選んで悩みを解消しましょう。
弁護士費用特約があれば 実質0円で依頼できます!

多くの保険会社では、被害者1名につき最大300万円までの弁護士費用を負担してくれます。特約があるか分からない方でも、お気軽にご相談ください。弁護士と一緒にご確認した上で依頼の有無を決めて頂けます。
特約を利用して弁護士に相談する交通事故問題を依頼する弁護士の選び方にはポイントがあります。
- 過去の解決事例を確認する
- 料金体系が明確である弁護士を選ぶ
- 交通事故問題が得意な弁護士から選ぶ
等です。
詳しくは以下の記事を読んで、正しい弁護士の選び方を理解した上で弁護士に相談しましょう。
弁護士の選び方について詳しくみる
【初回相談料・着手金0円】◆交通事故被害にお悩みのあなたへ◆慰謝料・示談金に納得していますか?◆事故直後から示談金獲得まで全てフォローします。お気軽にご相談ください!【各線「池袋」駅東口より徒歩8分】
事務所詳細を見る
【トリプル0円でリーズナブル!】一人の弁護士が最後まで対応|弁護士費用特約で自己負担0円◎後遺障害等級・賠償金の獲得ならお早めにご相談ください*歴19年の経験豊富な弁護士が証拠収集に向けて徹底的に動きます。
事務所詳細を見る
【来所不要・交通事故の被害者は初回相談料0円】◆豊富な解決実績◆示談金の大幅な増額実績多数◆交通事故専門チームが丁寧に対応します。まずは無料でご相談ください。【「錦糸町駅」南口から徒歩9分】
事務所詳細を見る当サイトでは、有料登録弁護士を優先的に表示しています。また、以下の条件も加味して並び順を決定しています。
・検索時に指定された都道府県に所在するかや事件対応を行っている事務所かどうか
・当サイト経由の問合せ量の多寡


後遺障害等級・申請方法に関する新着コラム
-
本記事では、交通事故の被害に遭い橈骨頭骨折を負った方に向けて、橈骨橈骨折の症状や後遺症に関する基礎知識、橈骨橈骨折で認められる後遺障害等級の目安、適切な後遺障害...
-
交通事故で頚椎を損傷すると、どのような症状が出るのでしょうか?本記事では、頚椎損傷の主な症状や考えられる後遺症、加害者に請求できるお金について解説します。少しで...
-
交通事故による後遺症が残ったときは、後遺障害等級認定の手続きが必要です。等級認定を受けることができれば、賠償金の大幅な増額が期待できます。本記事では、後遺障害等...
-
交通事故に遭ったことが原因でけがを負い、後遺症が残った場合は、後遺障害等級認定を受けることで保険会社から損害賠償を受け取れる可能性があります。交通事故による後遺...
-
交通事故に遭ってしまい腰椎圧迫骨折の治療を続けたものの、後遺障害等級が認定されず、不安を感じている方もいるのではないでしょうか。本記事では、腰椎圧迫骨折で後遺障...
-
本記事では交通事故の被害に遭った方に向けて、後遺障害等級認定の定義、仕組み、認定機関、調査期間などの基礎知識、事前認定と被害者請求の大まかな流れ、後遺障害等級が...
-
事故で受けたケガが完治しない場合「後遺障害等級認定を受けるかどうか悩んでいる」という方もいるでしょう。この記事では、「後遺障害等級認定を受けることにはデメリット...
-
交通事故に巻き込まれた際は、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。支払ってもらえる保険金額や逸失利益を計算したい場合もあるでしょう。本記事では、後遺障害...
-
後遺障害等級と障害者手帳の交付を受けるための等級は別物であり、必ずしも障害者手帳が交付されるわけではありません。本記事では、後遺障害11級に認定された方に向けて...
-
後遺障害10級には、肩・腕・手や股関節・膝・足を骨折して可動域が2分の1以下に制限された場合が含まれます。本記事では、後遺障害10級の具体的な症状や認定基準、後...
後遺障害等級・申請方法に関する人気コラム
-
後遺障害14級は最も軽症の後遺障害等級で、たとえばむちうち・聴力の低下・歯の欠損などがあった場合に認定されます。本記事では、交通事故で後遺障害14級が認定される...
-
後遺障害診断書の概要や入手方法、書き方と記入例、後遺障害の等級認定を獲得するためのポイントのほか、医師が診断書を書いてくれない場合とその対処法、後遺障害診断書の...
-
今回お伝えする内容は、後遺障害等級12級に該当する症状と認定の方法、そして、後遺障害等級12級の適切な慰謝料を獲得する7つの知識をご紹介します。
-
交通事故に遭った被害者のために、後遺障害の基礎・基本を解説します。適切な治療やリハビリを受けている場合でも、後遺障害を負ってしまうかもしれません。そのようなとき...
-
交通事故における症状固定とは、むちうちなどのような後遺障害等級の獲得や示談時期などを決める際に重要な意味があります。安易に保険会社から症状固定日の提案に同意する...
-
交通事故トラブルを弁護士に相談すれば、自身に有利な条件で問題解決できる可能性が高くなります。しかし、費用面が気がかりで躊躇している方もいるのではないでしょうか。...
-
高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)とは、主に脳に損傷を負ったことで起こる様々な神経心理学的障害(記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害など)...
-
後遺障害等級13級に該当する症状と後遺障害等級13級を獲得する手順をご紹介していきます。
-
後遺障害の認定が非該当になった場合に、異議申し立てを行うための方法と、成功させるコツをご紹介します。
-
後遺障害等級10級に認定された場合、その後遺障害が与える労働能力喪失率は27%と設定されており、後遺症が残った場合はいよいよ実生活にも多大な影響を与える症状が多...
後遺障害等級・申請方法の関連コラム
-
交通事故における後遺障害9級は、眼・耳・鼻・口・手足・内臓機能などに障害が残った場合に認定されます。1号から17号まであり、どのようなものが該当するのか押さえて...
-
後遺障害等級1級は、後遺障害として認定される症状のなかで最も重いものとされ、労働能力喪失率も100%に設定されています。そんな後遺障害等級1級に認定される症状と...
-
交通事故に遭った家族が1ヵ月以上意識不明の場合は、将来的に「遷延性意識障害」の診断を受ける可能性があります。 本記事では、家族が交通事故に遭って1ヵ月以上意識...
-
後遺障害認定されたら具体的に何がどうなるのでしょうか。この記事では、後遺障害認定されたら発生する慰謝料や逸失利益などのお金の知識や、後遺障害認定前と認定後の流れ...
-
交通事故の後遺症とは一体なんなのか、どのような症状の時に認定されどういった症状が該当するのでしょうか。後遺症と診断される症状の種類や、後遺障害となるケガに加えて...
-
後遺障害の等級で14級9号が認定された場合の、示談金(慰謝料)請求事例をご紹介します。保険会社が提示する示談の条件が必ず適正とは限りません。示談の内容に納得でき...
-
後遺障害等級が認められないと、慰謝料などの獲得はもちろんできませんし、治療費なども自分で負担していくことになりますので、適切な後遺障害等級を獲得できるように、ご...
-
後遺障害等級4級ともなると労働能力喪失率は92%ともなり、重度の後遺障害に認定されます。4級の症状にはどんなものがあるのか、獲得できる慰謝料はどの程度になるのか...
-
交通事故で頸椎捻挫をした場合には、後遺障害を認めてもらえる可能性があります。後遺障害等級が認められると、損害賠償額が大きく変わります。しかし、認定されるためには...
-
交通事故の被害を弁護士に相談するべき時期はケースバイケースです。この記事では、後遺障害を弁護士に相談するのに最も適したタイミングを解説します。弁護士への相談を検...
-
後遺障害の認定は書類審査により判断されます。申請内容に不備があると非該当になりやすいため、後遺症があるのに等級を獲得できないケースは珍しくありません。そこで、こ...
-
交通事故で発症した手や足のしびれは、症状が後遺症として残るケースがあります。そのような場合は後遺症に関する損害賠償を請求するため、後遺障害認定を受けなければいけ...
後遺障害等級・申請方法コラム一覧へ戻る